代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

小説「下町ロケット」読後感想 主人公・佃航平がみた夢とリアル

皆様、お元気ですか。さて、本日は先日読了した小説「下町ロケット」(池井戸潤著、小学館、2011)の読後感想を書きたいと思います。私が読んだのは小学館発行の文庫版2013年12月発行分です。TBSテレビ・日曜劇場「下町ロケット」の番組は残念ながら第1話と第2話はダイジェストのみ、第3話は本日、ネット上で視聴いたしました。

 

1.自身のバックグラウンドと響き合う物語

普段、宝塚歌劇ネタで埋め尽くされているこのブログからすると、とても堅い話になりますが、私は社会人の出発点が都市銀行支店での融資担当。企業や業界を調査する部門では機械を担当し、企業を財務諸表でとらえていた時代があります。

そして、現在の仕事ではいくつかある重要なテーマの一つが知的財産。社会人大学院で学び、マイナーな耳慣れない国家資格を有しているのも知的財産分野です。

仕事柄、周囲には大手企業の理系技術おじ様達、特許を有する中小企業の経営者、先端分野の大学研究者、弁護士・弁理士がおられます。また、親族ではなくかつ業種も全く違いますが、自分自身も後継@見習い

これって、まさに「下町ロケット」の世界をかなーーりリアルに想像できる環境とバックグラウンドかなと自分でも思います。

いや、ほんま、いつもより漢字が多いわ、お堅いわでびっくりです。いつのまにこんなにお堅い人生になってるの?自分?!←どっかで気づけよ・・(-_-;。

ほんで、何でまた宝塚歌劇にはまったん?自分?!←おそらく普段の堅い仕事の反動と思われます・・( -.-)。

 

2.主人公・佃航平の戦い

主人公である佃航平の人生は、自身がそう望んだわけではない戦いの連続なのです。彼は何と戦わざるを得なかったのか? 以下に整理してみます。

・宇宙科学開発機構「セイレーン」プロジェクトでの水素エンジン開発と打ち上げ失敗

・家業の佃製作所を継いでから、苦境の中での手のひらを返すかのような銀行との戦い(思い当たることは多々あります)

・特許侵害として法廷闘争をしかけてくる中島工業との戦い

・特許を巡り、譲渡・使用許諾を迫ってくる帝国重工との戦い

・開発コストや特許活用を巡る社員との意見の相違

・そして、妻との離婚、思春期の娘とのすれ違い

彼の人生は思わざる戦いの連続なのです。

 

3.佃製作所を支えた特許

この「下町ロケット」のストーリーの鍵を握るのが、小型エンジンの特許と水素エンジンのバルブシステムに関する特許です。佃製作所がこれらの特許を持っていなければ、この物語は始まらず、一方で窮地を脱する資金を手にすることもなかった。しかし同時に、特許の活用を巡って社員との意見の相違も起きます。

二重三重の窮地の中で佃製作所を救うべく現れるのが神谷弁護士です。実際にある弁護士の方がモデルになっておられ、ご経歴はそのまんまと言っていいほどです。

中島工業が訴えてきた小型エンジンの特許侵害事件では、佃製作所の特許はちゃんとあるのですが、当初の特許の取り方があまりうまくなかったため(特許出願の際に特許権の対象とする範囲の書き方がまずく、本来の技術的思想を狭めるようになってしまっていると言えば伝わるでしょうか)、こちらはやや不利な状況です。しかし、神谷弁護士の力により、別の小型エンジンに関する特許で佃製作所が圧倒的に有利に立てる特許侵害訴訟を逆にしかけ、56億円という多額の損害賠償金を和解によって得ることができるのです。

そしてこの多額の現金こそ、訴訟により資金的窮地に陥るはずだという帝国重工の思惑を跳ね除ける元になります。

小説では、主人公自身が法廷で証言に立つことはなく、代理人どおしでの戦いの中、裁判官が中島工業の時間稼ぎ戦術をいさめ和解を勧める形で決着が着きます。新聞記事に中島工業の法廷戦略に関する記事が出たことも追い風になります。ただ、それも結局のところ、佃製作所がちゃんと出願し審査を経て特許権を登録しているからこそ。基本は特許があるか・ないかなのです。

ではなぜ、佃製作所はそもそも特許を有していたのでしょうか?

そこは主人公自身の言葉としては明確には小説でも描かれていません。しかし、それこそ主人公の夢、主人公自身がまだはっきりとは自覚していなかった研究者、そしてエンジン・メーカーとしてのプライドと夢の表現ではなかったかと、私は思います。この夢については小説以上にテレビ番組の方が分かりやすく描かれていたと思います。

 

4.主人公が気づく自身の夢

以下、引用部分の出典はすべて「下町ロケット」(池井戸潤著、小学館、2011)

小説では主人公は娘から「私たちのためだなんていわないでよね」という言葉を投げかけられます。

「・・パパなんて会社も仕事も、みんな自分のためなんでしょ」と・・。

彼はその言葉を受けて考えるのです。父が亡き後、自分自身では母のため、社員のために会社を継いだつもりであった、しかし、それはひょっとしてロケット打ち上げが失敗に終わり、

「・・当時研究者として袋小路に彷徨い込んでいた佃にとって、単なる「逃げ」に過ぎなかったのではないか。」と、彼は気づくのです。

小説ではここで主人公の逡巡が描かれています。誰かのためにそうせざるを得なかったというのは、自分自身が直面したくない真実から目を背けるには、時に絶好の理由となり得るものだと私は思います。本来は自分自身の「選択」の問題であるはずなのに。

これは女性にとっての、子育てとキャリアの中で揺れる心にも通じるものがあると、私は思います。

この点については映画「マイ・インターン」について書いた記事がありますので、ご関心あればどうぞ!(^-^)

働き女子&ワーキングマザーの皆様へ 映画「マイ・インターン」から考える 自分を認め、夢を許すこと - 代取マザー、時々おとめ

 

主人公が娘との会話で逡巡しているその時に、別れた妻から電話があります。彼女は言うのです。

「あなた、ロケットエンジンの専門家でしょう。それとも、帝国重工の研究者にはかなわない?」と・・。

別れた妻は同じ分野の研究者であり、恐らくは戦友といってもいい存在なのではないでしょうか。そう思わせるような優しい挑発を含むかのようなセリフ。そして主人公は思うのです。

「オレは、もっと自分のために生きてもいいのかも知れない。」

その思いが、帝国重工への特許使用契約ではなく、エンジン・メーカーとしてエンジン部品の供給を目指すという方向へと、帝国重工との交渉方針を大きく切り替えていく主人公の原動力になるのです。

 

もともと、帝国重工が目指していたのは独占的な特許の使用契約でした(佃製作所が自社で他の用途に使うためには、おそらく独占的通常実施権ではないかと推測します)。

しかし、主人公は自身の夢の表現、あるいは作品と言ってもいい特許を使って、他者が夢を実現するのをただ眺めているのは、納得がいかなかったのだと思います。自身の技術が花開く道が見えてきた場合、どちらを選ぶかは選択であり、どちらを選んでもバルブシステムは実現する可能性があり、主人公の技術を載せたロケットは宇宙へと飛び出した可能性があります。

しかし、彼には自負があった水素エンジンの打ち上げ失敗を経験したことがある主人公だからこそ、分かるものがある。その彼のチャレンジ、これは研究者としてみた時、再チャレンジのです。

佃製作所としては初めてのことであっても、主人公にとっては再チャレンジ。初めてのときよりより賢く、思いがより強い。そういう夢に、彼は再び立ち上がるのです。そして、それはより困難な道の選択であったと思います。

 

4.佃製作所に漂う「香気」

そして、佃製作所の社風と技術力を目の当たりにした帝国重工の財前部長は、帝国重工の方針であるキーデバイスは内製という方針を変えようとするのです。

財前部長の思いの表現として、小説では「あの工場に漂う香気」という言葉が使われています。私はこの「香気」という言葉がとても素敵だと思いました。

私自身も仕事の関係で多くの中小企業を訪問してきましたが、確かに「香気」と呼びたくなるものを持つ企業があるのです。開発への意欲、一流の技術への誇り、情熱。それらがほのかに香るかのような企業。日本の宝と思える企業群があり、それは規模の大小で測ることはできないものです。

 

5.さて、その後は?

ここまでが先週日曜にテレビで放映されたお話ですね。480頁ある小説のちょうど真ん中あたり250頁前後あたりまでのストーリーです。

ここからは、帝国重工の取引先として認められるかどうか、帝国重工と佃製作所との新たな戦いが始まります。しかし、それは本当に戦いでしょうか?

小説ではある人物により、ある啖呵が切られるのですが、私はその通りだと思います。どんなに帝国重工の社員が偉そうな態度を取りたかろうが、特許は佃製作所が有しているのです。もちろん品質の安定的提供という条件はクリアしなければなりませんが、技術・特許面での勝敗は明白です。

そして、主人公・佃航平と帝国重工・藤間社長をつなぐある一点。そこが物語を最後に大きく動かすキーとなります。それは何か??

その点は小説のクライマックスであり、テレビ番組でのおそらくラスト近くの重要な場面になると思われますので、本日はここまでにいたします。

今後の展開をどうぞお楽しみに!(^-^) 

それにしても、吉川晃司さん演じる帝国重工の財前部長、貫禄ありすぎて本部長より偉く見えます。加えて佃製作所の工場の皆様、イケメンですなぁ・・。給食のおばちゃんとかで、miyakoguも入れてくれへんやろか? あ、料理は得意科目ではありませんでした・・。出直します(^-^)。