皆さま、こんばんは。本日は娘と私のおそーーい春休みプチ日帰り旅行で、宙組さんの博多座公演「王家に捧ぐ歌」を観劇してまいりました。その感想をお届けしますね。
1.宙組さんの見事なミュージカル!
驚きました。私は以前、宝塚大劇場で観劇した宙組さんの「王家に捧ぐ歌」の感想で書きましたとおり、伶美うららさんのアムネリスがとても好きで、歌はこの際、もうええか?派だったのです。
しかしながら、木村信司先生がパンフレットではっきりと「『王家に捧ぐ歌』の主人公は、三人います。」と書いておられますが、主人公3人が歌える演者であったとき、この作品はこのようになるのか?!と驚きました。3人とも歌い上げておられます。
ミュージカルの熱量が、音楽の大きな波が、舞台から押し寄せるかのようです。人数が大劇場より少ないにも関わらず力強いコーラス。お見事でした。
宝塚歌劇団オリジナルの作品の中でも(原作のオペラはありますが)、とてもミュージカルらしい素晴らしい作品ではないかと感じました。音楽が素晴らしくドラマチックな堂々たるミュージカルです。
場面場面では、たとえば女官達がアイーダに冷たく当たる場面など、私自身、あまり好きではない箇所もあります。
しかし、国と国の戦いの中で「メッセージなどよりさらに深く、生きることの深層へ。」とパンフレットの木村先生のお言葉にあるように、愛や勇気だけでなく、愚かさや情けなさも含めて、時代がどうであれ、置かれた運命の中でただただ必死で生きている人々を描いたダイナミックな作品であると、理解いたしました。
2.朝夏まなとさんのラダメス、実咲凜音さんのアイーダ
本日、朝夏まなとさんは最初、もしかすると少し鼻声でいらっしゃるのかしら?と心配いたしましたが、そのようなことは感じさせないような見事な演技でした。
特にまぁ様の視線の動き。
まぁ様の大きな魅力である目を使った演技が素晴らしかったのです。アイーダを求める強い視線、戦場で孤独を歌ううつろな視線、アムネリス様の見透かされるような視線への戸惑いの視線、結果として裏切ったのは自分だと気づく呆然とした悲しみの視線。
まぁ様は目の表情が素晴らしい上に、歌い上げる場面での豊富な声量、伸びる声がおありになります。宝塚大劇場で観劇した時から、まぁ様は一貫して「ラダメスを生きている」ことを感じさせる演技だったと思います。
もちろん、少女漫画の主人公のような栗色の長い髪、伏せた目の横顔の繊細な美しさはそのままです。マントをばさーーっと翻す場面、私はその線上の席にいたのですが、マントに吸い込まれそうでしたよ(^^) ←願望、娘も同意見。
実咲凜音さんのアイーダは、既に東京宝塚劇場の舞台でその変化をお見せになっていたのであれば、今さらで申し訳ないのですが、博多座において、みりおんさんのアイーダの感情表現、声の緩急と強弱のコントロールによる一人の女性としての表現が、格段に素晴らしくなっておられるように拝見いたしました。
私は大劇場でのアイーダの歌唱には実はあまり感心しなかったのです。歌はお上手ではある、ただどうかしら?とアイーダの強さの出し方にやや疑問を持って拝見していました。
しかし、今回のアイーダは違いました。国と国の狭間で苦悩し、しかしそれでも平和を願い、ラダメスの求愛を受入れうっとりと愛を歌う一方、父との切れない絆の中で、ラダメスをある意味利用してしまいます。でも、彼女は夢見るのです、ラダメスと。月の満ちる中、船で漕ぎ出すのだと・・。
リアルな人間というものは、そのように一貫していない弱さを内包しているものだと私も思います。
今回、初めてアイーダに感情移入をして私は泣けました。素晴らしかったと思います。
3.彩花まりさんのアムネリス
彩花まりさんのアムネリスは、彼女自身の持ち味をとてもうまく活かしておられたように思いました。高音までばぁーんと響き渡る力強い素晴らしい歌声でした。そして、その歌声は、舞台が進む中で「成長」していくのです。
最初、登場されて間もない場面では、ファラオの娘としての自負に満ちた高慢さや強さよりも、どこか優しげな面を残した品のある令嬢的なたたずまいでいらっしゃるかな?と思いました。
しかし、劇が進む中で彼女は役として見事に「成長」されるのです。最後にラダメスのところにやってくる場面では、女性としての弱さを一瞬取り戻しつつ、この作品の時間の流れの中で、品のある令嬢からファラオを継ぐ若き王女へと毎公演、リアルな成長を見せようとされているのではないかと、私は感じました。そして、おそらくはその成長は回を追うごとに鮮やかなものになっていくのではないかとも思うのです。
ファラオを継ぐ者として成長した後の、彼女の自信に満ちた声の迫力。素晴らしい歌声でした。
最初から「ファラオの娘」として登場する威厳やオーラは伶美うららさんの方が魅力的かもしれません。しかし、彩花まりさんは運命にあがらわずに「ファラオを継ぐ者」になる潔いのよい成長、過酷とも言える運命を受け入れる強さを、舞台が進む中で見せてくださる。そういう新たなアムネリス像ではないかと、私は受け止めました。
そして、真ん中3人が歌えることが、この作品が本来持っていた素晴らしい可能性を最大限に引き出しています。その最大の功労者が彩花まりさんではないかと思います。単なる歌上手枠ではなく、今後のご活躍を大いに期待いたします。
4.桜木みなとさんのウバルド
大柄で迫力があり野生味溢れた真風さんのウバルドとは、また違った魅力のウバルドでした。最初の登場場面、私の頭の中では当然、真風さんの歌声が響いていたのですが、桜木さんはよく通る予想以上に低い魅力的な声で、そこを塗り替えてくれました。
影のあるやるせなさや、自暴自棄と誇りを同時に感じさせるような魅力的なまなざし。「相続人の肖像」の時に、桜木さんはこういう憂いのあるまなざしをお見せになる方なのか?と驚いたものですが、普段のにこにことした柔らかな印象とは全く違う役を、彼女の持ち味を活かし、品のある王子としての存在感を出されています。
フィナーレの金髪黒塗りはさすがに真風さんの存在感にはなかなか及ばないかと思いますが、端整な美を見せてくださいました。
5.澄輝さやとさんのケペル、蒼羽りくさんのカマンテ
澄輝さやとさんのケペルは怜悧な軍人だけれど友達といる時は楽しそうに笑う、そういう人物のように見えました。美しい横顔のクールさと、楽しそうな笑顔の優しさとの魅力的なギャップ。ラダメスの裏切りを知ったときの驚愕、悔しさ、これらの感情を表情にはっきりとお出しになっていたと思います。
蒼羽りくさんのカマンテ。とてもユニークでした。りくさんは「相続人の肖像」以来、注目して拝見していますが、お歌も上達されているところへ、感情をむき出しにするかのような表情がお見事で目が離せない存在感でした。カマンテって、あんなお人柄でしたっけ??ものすごい表情が豊かで(顔芸がすごくて)、目が離せません。
星吹彩翔さんのサウフェ、瑠風輝さんのメレルカ。このお二人のよく通る声と歌のお力も、本日の「ミュージカルを観たわ!」という満足感をより強固にしてくれるものでした。また、「光ってやがる」を歌われた星月梨旺さんもそのお一人です。星月さんはエチオピアの兵士にエジプトの兵士と大忙しですね。(娘役さんも兵士をされていて、皆さん大変です)
箙さんのファラオは最後の場面でね、ラダメスに「何だ、言え」と楽しそうにお笑いになるところが「もぅもぅ・・(涙)」であり、アモナスロは緩急をよりはっきりと狂気を出しておられます。一樹さんの狂気の演技、素晴らしかったです。
少しばかり残念だったのは、女官の方々、エチオピアの囚人の方々の歌が、若干なのですが、やや弱くなっているように思いました。というより、他のパートがぐんっと歌のレベルを上げている分、そう思ったのかもしれません。
博多まで行った甲斐のある見事なミュージカル。宝塚歌劇団はここまでやるのだと、海外に作品として輸出するか、外部で男性を入れた形で上演されるか、過去に芸術祭で受賞もされていますがそれ以上に、何らかの形で世にもっと知らしめていただきたい作品です。
舞台から押し寄せるナイルの流れのような歌声と音楽、そして宙組さんがもたらす舞台の熱量。宙組さんの次作「エリザベート」への期待を高めるものでした。
博多座が比較的お近くの方はぜひ! そしてやや遠方の方もお時間とお財布(^^)のご都合が許せば、ぜひご観劇をお楽しみください。「ミュージカルを観た!」という満足感をもたらす今作です。
おばちゃんな、中学生娘の交通費がいっちょまえの大人料金やんか!と気づいて慌てたわ。この間まで、子ども料金やったからなぁ・・。これからは遠征は一人でこっそり行こうと心の中で誓いましたよ(^^)。ばれないようにね! 書いてるそばからばれるけどね!(^^)