代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

宝塚雪組・梅芸「ドン・ジュアン」 感想2 望海さんの愛の怖れと二人のヒロイン、彩風さんと香綾さんのストーリーテラー

その1はこちら、今作品への総論としての感想になっています。

mothercoenote.hatenablog.com

 

1.望海風斗さん演じるドン・ジュアンの愛への怖れ

望海風斗さんは、母親を幼少期に亡くし、愛を渇望し怖れるが故に、愛から遠ざかる行為にふけるドン・ジュアンを見事に演じておられたと思います。(梅芸からはどうも、幼少期のトラウマの要因が、神奈川バージョンとは若干、異なって描かれているようですね)

自暴自棄である自分、あるいは愛なんていらないと強がっている自分を世に解き放つことでしか、無意識のうちには愛を渇望している自分を押さえ込めないかのように見えるのです。

快楽に溺れ、快楽を楽しんでいるのは事実なのですが、本当は求めているものは少し違うところにあるのだと、感づいている自分を認めたくない。望海さんが演じておられるドン・ジュアンの鋭いけれど、どこか不満そうな眼差しからは、そういったものを感じました。

彼は自分が殺害した騎士団長の亡霊によって、徐々に「愛なんて”へ”さ!」という自分と、愛を渇望する自分との均衡を崩されていきます。彼は愛への怖れを持つようになるのですね。そして、最後には愛を求めた自分を受入れ、剣を手放し、マリアの婚約者であるラファエルに刺されます。ラファエルに対して剣の腕は圧倒的であったにも関わらず。

彼は、決闘でラファエルを殺めてしまうと、マリアの愛を失うことを最も怖れたのです。自分の命と引き換えにでも永遠に、マリアの記憶の中で愛とともに生きることを選び取った最後です。

2幕冒頭、楽しそうで幸福そうな幻想の結婚式の場面、マリアを見失った時のドン・ジュアン望海さんのハの字眉毛の困り顔・・。母を見失った子どものようです。そして、二人で目覚める場面での甘えた寝姿、「ずっと一緒だ」と何度も確認したくなるような必死の姿のドン・ジュアン。かわいらしく切ない・・。

そんなドン・ジュアンの均衡を揺らがす存在として登場するのが、まずはエルヴィラであり、マリアです。

 

2.ドン・ジュアンを取り巻く女性

ひと時の相手や酒場の女達は快楽の相手ですが、ドン・ジュアン自身の均衡を揺らがすような存在ではありません。打ち捨てていける相手。ただ女達にとっては、ドン・ジュアンが自身の均衡を揺らがす存在となっています。しかし、彼はそのことに気がつきません。その恨みが実は女達の間に積み重なっているのです。

その典型であり、かつ突出した存在として、まずエルヴィラが登場します。エルヴィラはドン・ジュアンとの一夜によってドン・ジュアンの妻となったと思い込み、彼女自身の均衡を崩し、まるでストーカーのように行き先々に現れます。一途な愛ともいえるし、思いつめた世間知らずの修道院育ちの御嬢さんともいえます。

彼女は「私だってなれるわ、こんな女に」と酒場で、肌を見せる行為に及び(当時の常識からは大きく逸脱していると思われます)、それは観ている側にはいたたまれない思いをさせるものでした。肌を見せながらも十字架をしている哀れさ。

そのエルヴィラを見事に演じておられるのが、有沙瞳さんです。「銀二貫」での早口の演技が、どうしてもしっくりこなかったのですが、今作品ではやや早口が残る場面はあるものの、もともとお持ちの強さと健気さをうまくミックスした形で出されていたと思います。美しい歌声にヒロインとしての容姿が素敵でした。

そして、遂にドン・ジュアンの心の均衡を大きく乱した存在が、マリアです。マリアを演じる彩みちるさんは、神奈川公演では日によって歌唱力の上下があったようですが、私がみた本日夜公演については、ほんの少しの歌唱の乱れをのぞいては、非常にうまく演じ切っておられたと思います。彼女はドン・ジュアンにとって「あちら側の人間」なのです。正当で真っ当で白い光に満ちたような世界。そして、ドン・ジュアンは「あちら側」に自分も行こうとするのですね。

彩みちるさんは後ほんの少しだけ声に透明感が出れば、可愛らしい舞台の容姿とともに抜群のヒロイン力をお出しになるとおおいに期待いたします。

 

3.彩風咲奈さんと香綾さんの見事なストーリーテラー

今作品で驚かされた方の筆頭が、彩風咲奈さんと香綾しずるさんのストーリーテラーでした。

彩風咲奈さんのドン・カルロは、ドン・ジュアンの物語を追いかけ見届けるストーリーテラーとして、香綾しずるさんの騎士団長の亡霊はドン・ジュアンを先導するストーリーテラーとしての役割を担うかのようです。

1幕も2幕も彩風咲奈さんの見事な腹筋による身を起こすしぐさから始まります。なんという美しい腹筋ですか?!お見事です。咲奈さんは落ち着いた発声、感情を乗せた歌唱、綺麗な身のこなし、痩せてしゅっとされた美しいスタイルといずれも非常にスターらしさが増しておられると思います。物静かな役でありながら、舞台全編を通じた存在感。咲奈さんのドン・カルロは、エルヴィラに心惹かれているのですが(物語上)、本当はドン・ジュアンを愛していますよね?!生田先生?、白状をお願いします。

香綾しずるさんはお見事の一言です。ものすごいメイク、そのメイクをものにする存在感と深みのある声、よどみないセリフ、歌。

騎士団長の亡霊の演者が、ドン・ジュアンとがっぷり組める相手でないと、この作品は最終地点までぎりぎりとした緊張関係を持って進むことができないと思うのです。彼は、こうなるしかなかった場所へとドン・ジュアンを導いていく役割であり、香綾さんだからこそ、その役目を見事に果たしておられたと、私は思います。すばらしかった。

一点、不安があるとすれば、「るろうに剣心」の御庭番衆と同様に、もし将来、ご結婚されることがあれば、披露宴などで絶対にこのお写真が投影されてしまうのではないかということでしょうか・・?ごめんなさい、しょうもないこと心配して!

 

感想はまた明日以降に書きたいと思います。一晩では無理でした。ただ、本日、寝る前にこれだけは言いたい!あのね・・。

 

セビリア、どうなってんの?!

愛と憎しみと殺人が起こりすぎ。「激情」しかり、「ドン・ジュアン」しかり。セビリアってどんなまちなん?!ということです。「セビリアの理髪師」というオペラ(これは喜劇)の舞台でもありますよね。

miyakogu、その謎を解きに旅立ちかねませんよ、ほんまに。

 

その3以降は、以下について書けたらと思います。

・永久輝せあさんと美形すぎる兵士達、ジャニーズ事務所のスカウトがまじで心配

・これは語るでしょう、煌羽レオさんの生腹・腹筋

・下級生さんにいたるまでの歌唱力と情熱のダンス

(続く)※多分。時期は未定。今週末までには多分、完成の見込み。