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代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。

月組・グランドホテル 感想5 真剣に考えた「死のボレロ」の意味、珠城りょうさんの恋とおびえの感情表現

皆さま、こんばんは。本日、開幕1週間の宝塚歌劇団・月組「グランドホテル/カルーセル輪舞曲」15時公演を観劇してきましたので、その感想をお届けします!

今公演は、私はショウはそこまで「うぉーー」とならず、よくまとまったダンス中心の端整なショウだと拝見しています。ただ・・。

ミュージカルが素晴らしい のですよ。本当に!!!

これ、受け止め方によってはあまり宝塚らしくない作品かもしれません。でも、こういう作品を時々、上演されるとジェンヌさんもスタッフさんも、ぐんと何か違うレベルに突入されるのではないかと思います。月組の皆さんは、本当にすごい。

おばちゃんな、実録・心の声はひとまず置いておいて、正直に書くわな!!!

 

1.珠城りょうさん男爵と愛希れいかさんグルーシンスカヤの恋物語

お正月初日。実は「うわ、これ、オットーの物語やん」と正直、思いました。

もともと、宝塚初演は当時のトップスター・涼風真世さんがオットーとして主演された物語です。初日、美弥るりかさんが大変素晴らしい演技をされたこともあり、他の皆さまも部分の演技・歌唱・ダンスはもちろん素晴らしかったのですが、男爵とグルーシンスカヤの物語としてぐっと響くところまでは行ってなかったように、私は思いました。

しかし、本日は珠城りょうさんの男爵と愛希れいかさんのグルーシンスカヤの恋の物語が舞台から伝わってきました。

もちろん、グランドホテルは、様々な人間模様が交錯するストーリー。それぞれに物語があってしかるべきです。ただ、本日は二人の「恋物語」が舞台から伝わってきたように、私は思いました。

愛希れいかさんは全盛期を過ぎたバレリーナとして初日よりやや年上に、そして珠城りょうさんは人間味のある魅力的な青年貴族として初日よりやや若く、すれていないように見えたのです。不思議なことに。

そのため、二人の間に突然生まれる恋が、より純粋に美しく鮮明に見え、そして突然の終わりがより切なく見えたのです。

 

2.珠城りょうさんの声の伸びと揺れる感情表現

その変化をもたらしたのは、珠城りょうさんの歌唱における感情表現の成熟だと思います。初日から、愛希れいかさんは「ザ・女優」という表現をされていて、私はその素晴らしさと迫力に驚きました。男爵に抱きしめられた時、手を震わせ、「震えているわ」と歌われるのです。

本日の珠城りょうさんの声はのびやかによく通り、初日より断然素晴らしいものになっていました。

私が思う珠ちゃんの最大の強みは、きちんと歌え踊れる上で見せてくださる、揺れ動く感情の表現です。

戸惑い、ためらい、葛藤。二つの感情の中で揺れ動く青年。こういった表現において、どういうわけか 珠ちゃんは抜群!なのです。

グルーシンスカヤと突然の恋に落ちる場面で歌い上げる「Love Can't Happen」における伸びやかな声、瑞瑞しい喜び。加えて、初日と一番変わっていたのが最後の「Roses At The Station」でした。

早いテンポで言葉の区切り方も独特、きちんと歌うことに気を取られると、感情を乗せるのは難しい歌ではないかと思うのですね。死ぬ間際にフラッシュするという人生の過去のシーン。

今日は珠ちゃんが見事に歌っておられたのです。赤いバラを抱えながら。

 

幸福な少年時代への追憶、青年時代の戦場での思い出。

初めて知った本物の恋。

しかしその直後に終わりを唐突に迎えた生。

彼は戦場を生き抜いたのに、初めて本物の恋を知ったのに・・。無為に過ごしてきた人生の代償かのような事故。

 

彼はオットーからお金を分けてもらった。でもそのお金を借金返済に取り上げられてしまった。グルーシンスカヤとともにウィーンに行くお金が欲しかった。だから、プライジングの部屋に盗みに入ることになってしまった。でもそのためにフラムシェンを助けたくなる場面に遭遇し、撃たれた。

すべてはつながっています。彼の無為に過ごした青春のツケを払ったかのような事故。しかし、本物の恋を知った彼は、今こそ、真に生きたかったと思うのです。ウィーンに行けるはずのお金を運転手に取り上げられたとき、彼は悲痛に叫びます。君たちにとってははした金でも、自分にとっては全財産なんだという彼の必死さ。

今こそ、誰よりも生きたかった男爵。「生」への希望が高まった頂点で、彼は亡くなってしまいます。

それは、どれほどの無念さであっただろうと、私は思います。

 

3.「死のボレロ」

彼が快楽を楽しみ、恐らくは無為に過ごした20代の日々には、彼が10代の終わり頃に参加しただろうと思われる第一次世界大戦の影があるように私は考えています。(第一次世界大戦は1914年から1918年、この作品の舞台は1928年、NY株式市場暴落をきっかけとする1929年の世界恐慌の一年前です)

多感な時期に生き延びた戦場(一瞬だけ、上記の歌の場面で出てきます)。彼は確かに生き延びた、しかし、多くの友は戦場で亡くなったのではないかと思うのですね。

自身を幸運だと思う一方、「死」をあまりにも多く身近に見てしまったゆえに、彼の心は、今、目の前にある快楽へと向いたのではないか。そうするより他に彼の身近で起こったあまりに多くの「死」から逃れるすべはなかったのではないか。そう私は想像します。

 

その彼に「死」を突きつけるかのような「Death/Bolero」(ちゃぴさんが黒い衣装で現れ、上記の歌の後、たまちゃぴで踊ります)。

男爵は最初、グルーシンスカヤの姿をした「死」に脅え、逃げるかのようです。彼が直面したくなかった、目を背けたかった「死」。

でも、彼はグルーシンスカヤと出会って、たとえわずかな時間であっても、自分の輝く「生」を確かに生きたという実感を得たはずです。

そのことに気づいた彼は、グルーシンスカヤに導かれるように最後には安らかに、むしろ魅入られるように「死」を受け入れ、グルーシンスカヤの姿をした「死」は本来の役割に戻るかのように彼の命をきっぱりと奪います。勝手な解釈ながら、そのように私には見えたお二人のダンスでした。

 

というようなことを、アラフィフのおばちゃんに瞬時に感じさせ、想像させた珠ちゃんの歌と演技、珠城りょうさんと愛希れいかさんの「Death/Bolero」だったのです。

 

おばちゃんな、人生経験、ジェンヌさんよりはかなりあるやん?

けれど、時々、随分若いはずのジェンヌさんが深い解釈によるのか、直感によるのか、才能によるのか、それはわからないのですが、私達の経験を総合した実感の、さらにその先にある素晴らしい舞台を見せてくださることがあります

その驚きと感動。本日の「グランド・ホテル」の珠城りょうさんと愛希れいかさんのお二人からは、それらを受け取りました。ブラボー!

もちろん、それは美弥るりかさんの素晴らしいオットー、早乙女わかばさんの生き生きと躍動するフラムシェン、グルーシンスカヤへの切ない同性の恋を抱えた暁千星さんのラファエラ、若きパパの喜びを歌う朝美絢さんのエリック、舞台上で絶妙な演技と正確な動きを見せておられる月組の皆さま、専科の夏美ようさんと華形ひかるさん。皆さまの総合力あってのものでした。

 

考えてみると、オットーは「死」に近いが「生」を望み、フラムシェンとエリックは新たな「生」を迎え、プライジングは破滅におびえつつ「生」を求め、ドクターはグランド・ホテルのロビーで静かに「死」を待っている。「愛と生と死」に彩られた物語です。

皆さまも、どうぞご観劇をお楽しみください。

 

’(役替わり4パターンの感想はこちらです。よろしければどうぞ!)

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(お正月の大劇場初日感想の1から4まではこちらです。よろしければどうぞ!)

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