代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

おっさんずラブ 第7話最終回感想 牧春の幸せ、部長の愛 ー結婚の意味について考えた

えー、以下はTV朝日系「おっさんずラブ」第7話最終回の感想を、牧春の幸せと吉田鋼太郎さん演じる黒澤部長の切なさを中心に書いています。本来のホームである宝塚ファン同志の皆さまは、ラスト1回(のはず)、暖かく見守ってやってください・・。

 

1.牧春の幸せ、それは私たちの恋の成就(涙目)

第6話のラスト、「はぁぁん?!」という予告が出てtwitterは荒れていた。そこに図ったかのように公式から投下された様々な写真、記事。うん、ちょっとあざといな。そう思ったのは事実。けれど、この作品が視聴率以上のインパクトを残した存在としてTV局上層部にわかってもらうためには、このお祭りを盛り上げておいた方がいいのでは?そう思ったのも事実。

でも、そんな考えを一切合切、視聴者の心臓のドキドキの爆音とともに、見事にはるか彼方に吹っ飛ばしてくれた春田さんが牧君に向けて言った「一緒にいたい、だから結婚してください」というピュアで力強い幸せ。

春田さんのたくましい腕が、牧君が何を言っても今度は絶対に離さないと言っているように強く強く牧君を抱きしめて。

牧君がこの幸せをつかんでいいのかとおそるおそる背中に手を回して。

でもやっぱり夢じゃないとわかって、牧君がぎゅっとして嗚咽して。

幸せに泣く牧君を最後の最後に観られて、思い残すことはございません!ありがとうございました。TV朝日と制作に関わったすべての方へ、合掌。

牧君が春田さんに一生懸命恋をして、春田さんが戸惑いながら巻き込まれるように牧君に恋をして、その恋が実る。それは観ている側の私達の恋の成就でもあった。

はらはらしてどきどきして、考え始めたら寝られないくらい切ない。その現象をどう呼ぶのが一番妥当かと言えば、やはりそれは「恋」だったと思う。

でも、それは誰への恋だったのだろう?多分、牧春二人が描く風景への恋だったのかもしれない。中でも、牧君を演じた林遣都さんが美しい青年であったことは大きいと思う。

 

2.林遣都さんが演じる牧君の多弁な瞳

林遣都さん演じる牧君の瞳は、この物語において誰よりも多弁だった。第7話においても。

「僕は部長とおつきあいをしているわけではないので」という春田さんの言葉を聞いたときのかすかな希望の目。

部長との結婚お祝いの飲み会を一人だけ抜けてちずちゃんに呼び止められた時の目。

上海に行く前にできるだけ引継ぎを一緒に回りたいという時の思いを含めた目。

武川さんに本当にいいのかと詰め寄られた後の、どこか遠くを見るような目。

春田さんが走ってきてくれた時、信じられないくらい嬉しいのにまだ信じられない目。

牧君は第1話、シャワー中の春田さんに乱入して「好きだ」と言える強さがあるはずなのに「俺とつきあってください」と告げる強さがあるのに、第1話からずっとずっと切なくて、不安や揺らぎを示す方の言葉はいつも呑み込んでしまう。

何も言わずに、いや何も言えずに、勝手に一人で結論を出して一人で去っていく。

第6話ラスト、心とは正反対の言葉を口にして泣く牧君はエリートの青年ではなく、ただ恋する25歳だった。

本当はもっと素敵で洗練された賢い恋の一手はもっとある。観ているだけの立場からは見える。けれど、25歳の恋する彼に、必死でいつも不安な彼にそんなことは無理だ。恋する若者は自分でもどうしたらいいか迷子になって、必死過ぎて暴走する。シェイクスピアの時代からそう決まっている。恋する人は賢くなんてなれない。それでいい。

牧君の瞳が語る本当のことに一番気づくのは同じ人を好きだったちずちゃんだ。ちずちゃんが「私は辛かったよ」と言うから、彼ははじめて「つれぇ・・」と言える。

同じ人を好きだったちずちゃんとなら、橋の上から「なんで部長なんだよー!」と叫ぶことができる。ありがとう、ちずちゃん。

そして、春田さんにストレートに「好きだ」と言ってもらって真正面から抱きしめられたから、彼はもう我慢しないって決められたんだ。牧君の心を解放してくれて、ありがとう、春田さん(涙目)

 

3.田中圭さん演じる春田さんの正直な強さ

春田さんは、言葉を呑み込んだ牧君に置き去りにされてきた。

好きだ、つきあってくださいと言われて、実家に挨拶に行って家族と仲良しになりたいと告げた日に、「一緒にいると苦しいばっかりで」「もう好きじゃない」と号泣しながら言われたら、彼は止まってしまう。

だって、春田さんはいつも言葉と感情がまっすぐにつながっているから。彼は言葉を呑み込んだり、心と裏腹の言葉を言ったりしない。

ストレートでまっすぐに”ばか”。部長が最後に送った手紙に書いたとおり、愛おしいほど”ばか”だから。彼の最大の強みである率直な強さは、牧君の言葉をそのままに受け止めてしまう弱さでもある。

ただし、彼はこの恋を経て、少しだけいい意味でも悪い意味でも大人になっている。「俺があいつに振られたんですよ」「そんな今さら」という言葉に感じる彼のかたくなな心。冷蔵庫に残されていた牧君のメモを見つめる春田さんは、言いたい言葉を少しだけ呑み込む人になっている。

オープン一方だった心に傷を受けて、一番大切な部分に鍵をかけてしまっている。彼は愛も結婚も何なのか、わからないまま止ってしまう。会社で牧君に話しかけようとして避けられた彼にとって、この1年は彼がその鍵の中から出てくるのに必要な時間だったのだと私は思う。

それくらい深い傷。それくらい牧君が好きになっていたからこその。1年の間、たとえ部長と暮らしていても、彼は何度も何度も牧君のことを想ったはずだ。キスの感触を繰り返し想ったはずだ。主題歌にあるように何度も牧君を思い出したはずだ。

 

4.吉田鋼太郎さん演じる黒澤部長の愛

そんな春田さんの心に優しくストレートにノックして、少しだけドアが開いたらずんずんと乗り込んでいくのが吉田鋼太郎さん演じる黒澤部長だ。

牧君に振られて傷心で生活も乱れた春田さんを救いに来る部長。彼は白馬に乗った大人の色気と優しさ一杯の王子様。

かつて、蝶子さんをぐいぐい押して結婚したように、今は春田さんを一心に愛している部長は10年来の想いを込めて愛を形=結婚にしようとする。部長にとってはそれこそが最大級の愛の証だからだと同年代の私は思う。

部長がずんずんと準備して実現を推し進める結婚。フラッシュモブでのプロポーズ、お祝いの飲み会、結婚式、披露宴。すべて準備が整っている。

唯一、準備が整っていないのは春田さんの心だ。

部長は気づいてしまう、そのことに。誰よりも春田さんのことを見つめてきた人だから。その時間の長さは牧君以上だから、ずっと見つめてきた部長には春田さんの心の揺れがわかってしまう。

武川さんに「正直、部長のことは好きなのか」と聞かれた春田さんは、結婚祝いの飲み会なのに「え、好きですよ。何すか?」と逆切れ的にしか言えない・・。それを部長は聞いてしまっている。

牧君のことを好きなの?とちずちゃんに聞かれた時とは全く違う・・。牧君を思い浮かべたであろう一瞬の間を置いて「うん、まぁ」とほほ笑んだ春田さん。

部長、多分、「おっさんずラブ」を毎週、見てたんだよね(涙目)。だから分かってしまうんだよね・・。←落ち着いて、miyakoguさん。

「君に出会えて良かった」との手紙を残し夜の街を歩き、春田さんを想う部長は何かの心を決めている。

 

5.結婚式から一人だけの披露宴へ

「誓いのキスを」と促されて止ってしまう春田さん。彼は嘘をつけない。絶対に。彼はただただ牧君を思い出す。

牧師さんにすっと手をあげる吉田鋼太郎さんの演技、その一瞬の手の動きだけで、すべて部長がわかっていたことを伝えてくる。だから二人だけの式、おそらくは牧師さんにも事前にある可能性を伝えてあったのだろう。

部長は本当は披露宴をキャンセルしていない。ほんの少しの望みを託した最後の賭けに自分で潔く負けて、「披露宴はキャンセルしてある」と部長は優しい嘘をつく。そうでなければ、また春田さんが流されてしまうから。

彼は春田さんの迷いをきっぱりと断ち切るために「行けーー!」と背中を押す。

春田さんに、愛を、結婚とは何かを教えてくれたのは部長だ。

彼は素敵なかっこいい大人だった。一人だけで披露宴会場にやってきて「振られちゃった」と笑う。年甲斐もなく年下を好きになって、結婚式からその人に去られる。ものすごくかっこ悪いことだ。

でも、吉田鋼太郎さんの演技は素敵にしか見えない。チャーミングで一生懸命恋をした清々しさしかない。見事な演技だった。私が一番泣いたのは実はここ。

 

6.結婚の意味について考えた

このドラマが投げかけようとした結婚とは何なのか?について考えてみると、春田さんがたどりついた「ずっと一緒にいたい」という気持ちを”約束”することなのかもしれないと、私は思う。もちろん後でほころぶこともあるけれど、少なくともその時は。

誰かを想う「好き」の中にもいろいろな気持ちがある。

「好きの物語」はそれぞれに異なる。その中で、では、結婚って何だろう?

 

私達家族は自分達の家のことを「巣穴」と呼んでいる。三重県に「伊賀の里手づくりもくもくファーム」という観光農園がある。娘が小さい頃、何度も行った場所だが、そこで暮らすミニブタや羊達は、何匹かいつもひっついて寝ていて安心そうで、「生き物」としてそれは根源的に必要な何かに思えた。

くっついて眠ることができる安心。それが明日も続くという約束。

「この人とそうありたい」と強く思う相手と、私たちは結びつくのだと思う。年齢も性別もおそらくは関係なく。

 

だからこそ、迷子だった牧君は「ただいま」と言って、春田さんは「おかえり」と言ったんだと思う。そう、今は彼らはくっついて眠ることができる。そして性愛のひと時は、恋を全身で相手に伝えられる時間だ。

大人になった春田さんは牧君にやめろよと言いつつ、「・・なわけねぇーだろ」と低い声で言って、獲物をやさしく仕留める目をして牧君を見下ろしてキスを落とす。

その慣れた口調で、うん、この間に何があったかは、まぁ、察したよね!←落ち着いて、miyakoguさん。

田中圭さんは官能的な作品ですばらしいエロスを体現されている方だと聞く。この場面の春田さんは田中圭さんの魅力が炸裂している。

観ている我々は「あーーーー!」と叫んで、終了後即、延々とリピートしたり、タイトルでシャットダウンされるぎりぎりの瞬間を切り取ったり、続きを見せろ!と叫んだりいろいろ忙しい。あの二人が放った官能が様々な形で伝播していく。笑ってしまうほどに。それは男性俳優としてのお二人の素晴らしい力だ。

 

無事に私たちの旅は終わった。ありがとう、牧春と部長。そして、牧君の背中を押してくれた武川さんとちずちゃん、ナイスタイミングで部長と春田さんがつきあっているわけではないと世に知らしめてくれたまいまい、まいまいが課金する鉄平兄、蝶子さんを大切にしてくれるだろうマロ、ちずちゃんを大切にしてくれそうな名前を知らない君も。最大に懸念していたBlu-rayも出る。もうスクショしてスライドをつくらなくてもいい。安堵した。

中学生娘はただいま、「正気を取り戻したい」と宝塚専門チャンネルを見ている。それで正気を保てるのか、別の沼に行くだけではないのか?と尋ねたところ、「常駐している沼の方がまだ安心できる」とのこと。

おっさんずラブの沼、または林遣都さんの美しい湖は、いつもいる沼とは酸素濃度が違って、我々は時々呼吸困難になった。

そのどきどきを、ありがとう。