代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

梅芸DC 月組・THE LAST PARTY 月城かなとさんの文学的香り漂う存在感、圧倒的に美しい舞台への驚き

本日は梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて、月組・月城かなとさん主演「THE LAST PARTY」を観劇しましたので、その感想をお届けします!ものすごく良かったのです。

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TVドラマ「おっさんずラブ」の余韻が著しいmiyakogu。映画・舞台・ドラマで主役を演じる力量の男性俳優ががっぷりぶつかりあうお芝居を拝見し、「演じる」とはどういうことかについてただ今、真剣に考察中です。

もう少しはっきり言いますと、あまりに田中圭さんと林遣都さんの演技が素晴らしくドラマで演じられた役がはまりすぎていて、宝塚の舞台を観ていてもお二人の映像が残像のように頭の中にずっと残っていました。

しかしながら、本日。梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて宝塚月組・月城かなとさん主演「THE LAST PARTY」を観劇し、記憶の中で反芻する映像が塗り替えられました。ちょっとこれはもう一度観たい。びっくりしました、美し過ぎて。再演ものですが、私自身は初見ですので、初演からご覧の方とは違った感想になると思います。

 

1.月城かなとさんの文学的香り

圧倒的に月城かなとさんの美と魅力が炸裂している舞台でした。

開演アナウンスからして、透明感のある美しい声。落ち着いていて明晰でした。このお芝居「THE LAST PARTY」は、スコット・フィッツジェラルドの独白を含めて、朗読劇のようにお芝居が進むシーンが多い作品だと私は思います。

そのため、セリフ声の美しさ、明晰さがこの驚くべき美しい舞台の出来をかなり左右すると思います。そこを見事にクリアし、米国隆盛期における青年らしさを打ち出してこられた月城かなとさんの声でした。

美貌、声、佇まい、すっとした姿勢、白いシャツ、ベストの似合う端正な背中。すべてに文学的香りが漂うれいこさん。素晴らしかった。植田景子先生が作り上げられたこの舞台に、月城かなとさんが持つ透明感のある文学的香りと美は、絶妙にマッチしていたと思います。

一番驚かされたのは、月城かなとさんの物語を伝えてくるセリフの抑揚の見事さでした。宝塚歌劇団の演劇において、迫力を必要とする場面での声を張り上げたセリフの言い方に、私自身は以前から違和感を感じてきました。

もちろん、時に私たちは魂の叫びのように絶叫することも、咆哮することも、泣くこともあります。けれど、静かであるが故にそこに帯びる熱、怒り、悲しみ、喜びこそが時に忘れえぬ記憶になることがある。私はそう思うのです。

今作品の月城かなとさんのお芝居は、フィッツジェラルドという繊細で複雑な感情を持った米国を代表する作家の内面を、時に歌い上げ、時に小さな声で静かなセリフによっても十二分に伝えておられたと感じました。彼女が静かに話される場面で、一番、色濃く感じたのは壮一帆さんの演技です。なるほど、こういう形で受け継がれていくのかと感じました。

声に加えて月城さんの端正な透明感のある美貌が強く印象に残ったのは、たとえば以下のような場面でした。

・机の脚にもたれてうなだれるように静かに座る姿
・海辺の夕陽のライトの中で歌う姿
・強い白い光の中で歌う姿
・トレンチコート、白いシャツ、サスペンダー、ベストの横顔、後ろ姿・・

彼女は、その美貌を強みにこの優れた脚本に込められた「文学」を、「声と美しい身体で語り伝える」という素晴らしい演技をされたと思います。感動いたしました。

 

2.シンプルでいて美しい舞台装置と照明

この舞台がとても美しいものとなった要因の一つに巧みな「照明」があると、本日拝見。照明は佐度孝治さんがご担当。またシンプルな舞台装置ながら巧みに場面を切り替える映像のご担当は九頭竜ちあきさんという方です。

海辺の映像をバックにした夕陽の照明や強くなる白い光の輝きの中で歌う月城さん。

中でも一番美しいなと思ったのは、月城かなとさんが椅子に座り、悠真りんさんと話している場面で、月城さんの背景から白い照明があてられた場面でした。

強い一筋の光を背景に座る月城さんの白いシャツ、金色の髪。後方から来る光が美貌を引き立て、絵画を見ているような美しさでした。

植田景子先生は作品のクリエイティブ・チームを構成する才能を、常に貪欲に探し発掘されておられるのだろうと感じます。

 

3.月組のお芝居の力

私は「華麗なるギャッツビー」を読んだことがありますが、小説の中のディジーについては、とらえどころのない気まぐれな美貌の人という印象があります。

ゼルダは美貌で、浮ついていて、派手好きだけれど、どこか寂しそうで常に充足を知らない女性のように見えました。とても難しい役だろうと思います。偉大なアーティストの周囲には、激しくうねる渦に巻き込まれてしまう人が出てしまいがちなのでしょう。近くにいればいるほど、ミューズであればあるほど。

その難しい役を、海乃美月さんは好演されていました。特に歌。抑えた哀しみがストレートに伝わる歌いだしの声のかぼそさ、繊細な震え。素晴らしかったと思います。

ただ、惜しむらくはセリフの声でした。フィッツジェラルドの妻としてある以上に、自分自身の生きている証をあきらめることができなかった複雑な女性を演じるにあたって、その人物の迫力をセリフの強い声に込めようとされたのかもしれません。

迫力の方が強く出る場面が続いてしまうと、舞台に一層の文学的香りを加えたというわけではなかったように思います。ほんの少しだけ頑張られ過ぎているのかなぁと。

一概には比べられませんが、「雨に唄えば」と「THE LAST PARTY」の両方を拝見すると、後もう少しだけお芝居のセリフの声が改善されれば、私は海乃美月さんはトップ娘役にふさわしい力量の方ではないかと感じました。

You are me, I am youと歌われる場面の切々とした表現、素晴らしかった!

 

暁千星さんのヘミングウエイも難しい役どころですが、戦場に赴き小説を書く男性的な米国人作家を迫力をもって好演されたと思います。私自身もヘミングウエイの作品をそう何度も読んできたわけではないのですが、作品の底に漂うように思えた虚無感は、銃を取って踊られた場面で暁さんから感じられたように思います。ただ、さすがに難しいですよね。

月城かなとさんと暁千星さんが二人で向かい合う場面は、お二人ともすらりと背が高いだけに絵になる場面でした。

暁さんの場面で圧巻だったのはフィナーレのダンス。浮かび上がる後ろ姿の手と脚の美しさ。高くジャンプしながら回転された姿は、どこで切り取っても美しい写真が撮れるだろうなという美しさ。バウ「アルカディア」でも驚きましたが、強く挑戦的な目をされるようになった方です。

 

印象に残った方々を挙げます。

・悠真りんさん ずっと一緒にやってきた編集者のマックスが、もう原稿代を前貸しはできないとフィッツジェラルドに告げる場面、彼自身の人生と哀しみを感じさせる演技が素敵でした。

・憧花ゆりあさん ああ、こういう人が最初からずっとそばにいれば、フィッツジェラルドはもっと楽に人生を生きられただろうに、という思いやりのある晩年の恋人を快活に。ただ、ゼルダとともに生きなければ、彼がそこまでの傑作を書くことはなかっただろうとも思います。

・夏月都さん スコットの秘書・ローラをユーモアとともに、最後には哀しみとともに去る場面がお上手でした。

・響れおなさん 強い目線の方ですね。医師として登場されてからは穏やかで、言葉を選びつつゼルダを患者として守り、ある意味、スコットを注意深く隔離しているのですね。

・英かおとさん ゼルダと浮気する高級士官。長身で白い制服を見事に着こなしておられました。

・風間柚乃さん 娘の大学の公園でスコットと出会い、知らずに作品の感想を伝える重要な役を無邪気に。ギャッツビーの影の役でのダンスの場面も印象的でした。

・蘭 尚樹さん バウ「アルカディア」で主役の暁さんに好意的なクラブ仲間を演じておられ、役の暖かな人柄が伝わりました。明晰なセリフ、少し歌われる場面もあったと思うのですが、口跡の良い方ではないかと思います。

 

とりあえず月城かなとさんが美しいだろう、くらいの気持ちで観に行った今作品。これほど緻密に計算された作品とは思っていませんでした。

植景子先生の透徹した美意識を感じる驚きの舞台。衝撃の美。

皆様もぜひご観劇をお楽しみください。