代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

星組・食聖/エクレールブリアン 感想 宝塚に舞い降りた美しきトップスター・紅ゆずるさんの矜持、圧巻のボレロ

暑い日々が続きますね、お元気ですか?三連休初日、宝塚大劇場にて星組トップコンビの退団公演「GOD OF STARS 食聖/エクレールブリアン」を観劇してきましたので、その感想をお届けします。

主にショーについて。というか、この美しいショーについて書いておかないといけないと思ったのです。この素晴らしさをぜひお伝えしたい!

宝塚の「善きこと」を体現するかであったような紅ゆずるさんのお姿を、そして「食聖」におけるあーちゃんの強くて不器用で可愛いアイリーンを、です。

いくつかの重要なショーの場面について書きますので、お嫌な方はお読みにならないでくださいね。

 

1.ショー エクレールブリアンの煌めき

素晴らしかった!美しかった!

酒井先生のご挨拶にあるように、宝塚歌劇団にとって、紅ゆずるさんというトップスターはどこか他の星からいきなりやって来て、閃光のきらめきを放ち、まばゆいばかりの衝撃を残し、そして去っていく。そういう存在だという思いが込められたショーだと思います。

清く正しく美しく。品行方正なタカラジェンヌのイメージと少し違って、美しい花園をずっとひょこひょこ覗き見にきていた近所のおきゃんな少女が、わわわーーと花園にやってきてびっくりすることをやってのけた、そういう感じがあるのですね。

大阪弁でいうなら「けったいなやっちゃなぁ」という感嘆を含んだため息。大阪でそのように言われることは褒め言葉です。底知れぬおもしろさ、今まで見たことのないような独創性、そういうものに対する「かなわない」という賛辞なのです。

そして一番重要なことは、紅さんはそう思わせておいて、誰よりも宝塚の品格を受け継いでいくことに強い意識がおありになったと思われることです。

昨年の秋(関西地方で先に)、8K導入の際に放映されたNHK特別番組「トップスターが語るタカラヅカ」において、私が驚かされたのは、宝塚の品格の伝承に関する紅さんの言葉でした。組や自分自身のことでなく、もっとも宝塚のことをお考えになっているのはこの人なのかもしれないと思ったのです。

紅さんは、宝塚の先生方からしてみると、いきなり現れた稲妻のような閃光のきらめきをまとったジェンヌさん、けれどその底には宝塚への強い強い思いがある。そういう人物だろうと想像します。

 

2.第5場 ひとり星の上で ~一番星の煌き~の美しさ

紅ゆずるさんは、銀橋を一人で歩き、さらりと裾を手で優雅に払って腰を下ろし、いとおしそうに客席を見渡し、一人一人に話しかけるように歌を歌われます。

酒井先生がこのショーの着想を得られたというジルベール・エコーのシャンソン「ひとり星の上で」。今、youtubeで見つけた安奈淳さんのものを再生しながら聞いていますが、歌唱そのものの上手さよりも、この歌の物語を語れる人に歌ってほしい歌です。

ファンの一人一人に優しく語りかけるように歌う紅さんの横顔の微笑み、星くずをちりばめたようなきらきらの衣装、衣装の裾を優雅に払われた手の美しい動き。

その全てが「ザ・宝塚」でした。夢のように美しく、少し寂しく、ロマンチックで甘く優しい。

この方はミュージカル役者としてみると、お力はちょっぴり弱かったかもしれない。けれど「宝塚の夢」を体現することにおいて、一人だけぽんっと突き抜けた地点にたどり着かれたのだと思います。素晴らしい場面でした。

この時点で、miyakogu、涙、涙です。はっや!

 

3.第11場 スペイン ~燃える情熱の煌き~、圧巻だったボレロ

このショーは、すべてがぴたりとはまったジグソーパズルのような本当に美しい素晴らしい構成なのですが、その中にあって圧巻だったのがこのボレロの場面です。

まず、有村先生の衣装が美しい!男役さんは下は黒一色、上着が緑色なのですが、お一人お一人の緑色が微妙に違うのです。娘役さんはスパニッシュの衣装ですが、こちらも黄色から緑色(確か。間違っていたらごめん!)のバリエーション。

そして、意表をつかれたのが大きな階段を、客席に向かってでなく、上手から下手に「横」に置いた構図です。

楽器が少なく静かに始まる音楽の中で、ターンの時に少しだけ聞こえる靴音、衣擦れの音、舞台に斜めに下りてくる人々の波。寄せては返す波のような音楽と人の動き、かたずを呑んで見守る静まり返る客席。

その静けさの中で、ぱぁっと、そう、閃光のように登場する紅さん。緊張感を高めて中心に集まっていくエネルギーの中心に、この人がただただ立っていること。その説得力がありました。この場面は、綺咲愛里さんの挑発的な目も素敵です。

言葉を失うような、本当に美しい素晴らしい群舞です。ぜひご覧ください。

 

4.第16場 フィナーレ ~至高の煌めき~C、哀切な音楽と紅さん

最初、ただ一人で大階段に登場する紅さん。その美しくも、ここまで私はたどり着いたという矜持を感じさせる立ち姿。見事でした。

ここの音楽が美しく、どこか哀切さを秘めた楽曲でした

もとの音楽の作曲・編曲は千住明さん、三味線録音演奏は上妻宏光さんの「風林火山 ~月冴ゆ夜~」、音楽は吉田優子先生とあります。こちらもただいま、Youtubeで聴きながら書いております。

壮大な、哀しい、切ない楽曲。

あたかも「私は行かなくてならない。そのことを許してほしい。ただ、あなたに私を覚えておいてほしい。」というように聞こえるメロディーだと私は思いました。

退団公演にふさわしい楽曲。こういう楽曲を探し当ててこられる演出の酒井澄夫先生に心からの敬意を。

そして、こういう楽曲をこの人に当てたいのだと思わせる、紅ゆずるさんその人の「これまで」に心からの敬意を

この時点で、ハンカチを口に押し当てて涙、涙、涙のmiyakogu。

私は「桜華に舞え」の紅さんの演技が好きで、「Another World」で紅さんが貧乏神の貧ちゃんにかけた「夢を応援する」というセリフが好きでした。真風さんの良き先輩でおられた紅さんのことが好きだったんだなぁと改めて思います。

娘役さんがまず紅さんの周りを美しく囲み、次に綺麗に隊形の整った男役さんが降りてこられる、とても美しい美しいフィナーレでした。

 ※Another Worldの演技についてはこちらです。

mothercoenote.hatenablog.com

5.他場面も素晴らしいです

他場面も本当に素晴らしく、なんというショーかと感嘆いたしました。

第6場のパリの場面の、舞空瞳さんの輝きと正確で美しいダンス、礼真琴さんのダンスによる美しい表現。この場面は物語を感じさせる構成で、端の方で店員や街の男女を演じておられる下級生さんの工夫もきらりと光りました。店員男を演じておられるのは煌えりせさん、凰真斗愛さんのお二人。こういう下級生さんの芝居心の一つ一つが舞台全体を押し上げているのだと思います。

存在感抜群だったのは華形ひかるさん。私はみつるさんの演技もショーも大好きで、圧巻のボレロの直後、軽やかにかっこよく粋に空気を変える華形さんの「ザッツライフ」、素敵でした。ここではロケットに入る前、如月蓮さんと麻央侑希のお二人がフィーチャーされているのも嬉しく拝見いたました

見所が多すぎて大変ですが、第8場ラテンにおける天寿光希さんの物語を感じさせる歌唱も本当に素晴らしいので、ぜひご注目を。

 

6.食聖

紅さんの退団公演にふさわしい賑やかなコメディと見せかけて、最後にはほんわかと心温まるハッピーエンドでした。

多くの方々が登場される賑やかさ。多くの方に役があり、小柳先生の愛を感じる作品です。その中で、何といってもあーちゃん!男前で可愛くて店を守ってきたヒーローで、料理が下手で、健気で一生懸命でという役どころがぴったりで、すかっとしました。とても良かった!

紅さんとあーちゃんに贈る言葉も埋め込まれ、小柳先生の愛を感じました。

ただ、昔の人気TV番組にのっかった料理対決と、まちのリノベーション、恋、父母との葛藤、キャリアウーマンのお母さんの人生、上海にシンガポールと、題材がやや詰め込まれすぎだったかもしれません。

わざと、そういう賑やかな”てんこ盛り”の作品として創作されただろうとは思います。小柳先生のご挨拶にある「深刻な表現こそ芸術性が高いと思われがちです。ですが、本当に辛い人を救うのはいつだって笑いだと私は信じています。」という一文。

(出典:「GOD OF STRAS 食聖」パンフレット、小柳奈穂子氏あいさつ文より引用)

私も全くそうだと思います。

ただ、その分、コメディは難しいのだろうと思います。悲劇以上に。

退団公演として、また、あーちゃんの魅力を引き出した作品としては非常に素晴らしい作品。賑やかさの奥に宝塚ファンのヒーローとしての紅さん、あーちゃんがあり、礼真琴さんの笑いのセンスもきらりと光る作品でした。ただ、できれば後もう少しだけ、本当に後もう少しだけ忘れられない何かがほしかった。その点では、谷先生渾身の「Another World」にはかなわなかったかなぁ。

小柳先生には、これからのコメディ創作に心からのエールをお送りします。ぜひぜひ、いつまでもファンの心に残る良質なコメディを今後ともお創りくだいますように!

あまりに私がショーが素晴らしかったと絶賛するので、旦那さんも観たくなったとのこと。幸いにもチケットをお譲りいただけましたので明日、急遽観劇です!

もう一回観てくる、そんで泣いてくる!!