代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

おっさんずラブ第6話感想 林遣都さんの涙の演技について考えた ー牧春の幸せを諦めてはいない

えー、以下はTV朝日系「おっさんずラブ」第6話の感想を、林遣都さんの涙の演技に関する考察を中心に切々と書いています。本来のホームである宝塚ファン同志の皆さまは、後1週間だけ生暖かく見守ってやってください・・。 

第7話感想はこちらです(嬉し泣き)。

mothercoenote.hatenablog.com

 

1.楽しそうな牧春、けれど・・

第6話は「僕たち、つきあってます」宣言を巡るすれ違いはあるものの、コミカルに始まっていって、うん、これ大丈夫だ、コミカル回だと気を抜いて見始めた。ほら、公式はよく爆弾を落とすけど、本編はいつも違う流れじゃん?

風邪で寝込んだ牧君を心配してお粥をつくろうとする春田さんと牧君のコミカルでかわいい掛け合いに大爆笑したり、吉田鋼太郎さん演じる部長のぐいぐいぶりに大笑いしていた。

そして、もちろん、あれな。

お見舞いに来た武川さんが残していった大量のお見舞い(牧君の好きなみかんゼリー含む)に気づくだろう春田さんがわぁわぁ言い出すのを察知した「黙らせるためのキス」。キスした後のちょっとどや気味の林遣都さんの顔を含めて、誠にありがとうございました(合掌)。

本気キスにうろたえる春田さんがおかしくって、おまけに実家に連れていく男子は初めてではないと言われて牧君の過去に嫉妬したりして。なーーんだ、付き合い始めてのカップルじゃーーん!というノリで。

ごはんをどうしよう?と言うかなと思ってと春田さんの物まねをいたずらっぽく牧君がしたり、牧君の理解者である天然らしい実母と妹に春田さんが翻弄されたり、前半はただ楽しくて幸せだった。けれど・・。

 

2.牧君が抱え込んでいる苦しさ

昼間、風邪の時に牧君が必要そうなものを大量に買い込んでやってくる武川さん。熱をはかる体で、おでこをひっつけられた牧君は「政宗!」と彼を突き飛ばす。

武川さんは弱っている牧君につけこもうとしたんじゃなくて、彼は牧君の不安を察知している。なぜ、つきあっていることを隠したのかという問いに「春田さんは本当に幸せなのかなと思って」と答える正直な牧君。武川さんなら分かるはずだから。

「自分の幸せより、相手の幸せか」 そうつぶやくと武川さんは「お大事に」と去っていく。武川さんも多分、同じことを思っている。

「牧がいないと俺がダメなんだ」というほど必要不可欠な相手なのに、牧君の幸せを願うから、彼はもうすがったりしない。

それは、後で春田さんに別れを切り出す牧君と同じだ。

 

3.ちずちゃんの存在

この物語で牧君にとって最大の脅威はちずちゃんだ。相手が同性の部長には、部長と春田さんの間にある10年という時間を無視して、牧君は真っ向戦いを挑める。(少なくとも第2話では)

けれど、女性であり結婚して子どもを持つことができる可能性があり、春田さんと10年よりはるかに長い時間を共有していて、牧君のことも認めてくれている人の好さそうなちずちゃんは、春田さんの心が向いてしまえば牧君がおそらくかなわない相手だ。牧君の目には自分ではなく、彼女の方が春田さんが「本当に幸せになれる」相手に見えている。

ちずちゃんから「春田に告白していい?」と聞かれた牧君は、「俺は大丈夫ですよ、全然」と言うけれど、見送る彼はもちろん全然大丈夫じゃない顔をしている。

だから、いきなり春田さんを実家に連れていって紹介しようとする。実家からの帰り道、「自分が安心したかっただけ」と言うとおり、それはちずちゃんに対する守りだ。

一方、ちずちゃんは、牧君は完璧で自分ではかなわないと思っている。

いろいろな人が、少しずつ間違っていく

客観的に戦略的に正しい一手なんて、恋では打てない。それこそ、人の愛おしさだと私は思う。

 

4.揺れる春田さんの心と優しさの罪

残念ながら娘と一緒に予想していたとおり、春田さんがちずちゃんに呼び出されているとき、たまたま家に戻ってきた春田母は牧君と遭遇し、春田の結婚への心配に触れ、孫の顔がみたい、ずっと友人でいてねと明るく去っていく。私だって将来、言いそうなセリフ、誰にも罪はない。

決定打になったのは、春田母の「早くちずちゃんとくっついてくれたらいいのに」という一言だったと思う。牧君はうなだれて、とぼとぼとリビングの席に戻る。

そして、春田母の忘れ物のストールに気づく。その瞬間、全視聴者が気づいただろう。春田母を探して牧君が夜のまちに飛び出すことに、ドラマでしかありえないほど必然かつ決定的に、ちずちゃんと春田の場面に牧君がたどり着くことに。

やっぱり牧君はその場面に遭遇し抱き合う二人を見て、泣きそうな顔をして一人ぼっちで帰っていく。

ちずちゃんの告白を聞いた春田さんの心は揺れ動いている「そんなの、俺だって」の後に本当は何を言おうとしたのだろう・・。明るく去ろうとした涙顔のちずちゃんを思わず引き留めて抱きしめてしまう彼の心は何を考えていたのだろう。いや、考えていたんじゃない、感じていたんだ。

でも、それはしかたないことだと私は思う。ちずちゃんと春田さんの間の時間は膨大で、関係は家族以下友人以上の親密な何かだから。そして春田さんは第1話で春田さんが無事だとわかって抱き着いた部長の髪をなでてしまうほどに全方位に優しいから。だからこそ、牧君は春田さんを好きになったんだから。

春田さんの優しさ。それはいろいろな人を惹きつけ、そして無意識に残酷に人を傷つける。

 

5.林遣都さんの涙の演技

「春田さんと一緒にいても苦しいことばっかりです。ずぅっーと。苦しいです」

ああ・・。やっぱり・・。牧君はずっとずっと苦しかったんだ・・。楽しそうなデート場面に萌えていたけれど、見ている私たちもうすうす気づいていた。

ずっとずっと牧君として大きな目一杯に涙をためていた林遣都さんの目から、涙の粒がぽろぽろと滑り落ちる。

その一粒ごとに彼の思いが散っていく。涙の一粒ごとに、彼の喜びが苦しさとともに散っていく。

人を好きになるのは嬉しくて楽しくて切なくて苦しい。配分はそれぞれに違っていても、喜びや楽しさ一方だけではない。それでも人は恋をする。いや、時にそういう恋をしてしまう。しようと思って恋をするんじゃない。

かつて、そんなふうに恋をした人の中にあるきらめく記憶と苦。今、そういう恋をしている人の想いと切なさ。そういう恋をしてみたいという人の憧れと恐れ

見ている側が心の奥にしまってある様々な思いを、林遣都さんの涙の演技は揺さぶってくる。

とんとんとノックして、どんどんとドアを突き破って、しまってあった思いをダイレクトに揺さぶり、震え始めさせてしまう。瞬間的に忘れていたはずの時間の中に、私たちは放り込まれる。

だからこそ、私たちは牧君の苦しさに同期して、虚構の物語のはずなのにここまで苦しくなってしまう。

「俺は、春田さんのことなんか、好きじゃない」

涙とともにそう叫ぶ牧君は、全身であなたが好きだ、あなたに幸せになってほしいと伝えていた。

それは林遣都さんのものすごい力だ。

 

6.牧春の幸せを諦めてはいない

ドラマ本編は1年後、なぜか春田さんが部長と同棲するところで終わる。実はTV情報誌のわずか数行の先取り情報で、金曜夜にそのことは知っていた。その分、立ち直りは昨夜初めて知った人よりわずかに早いと思う。

TVとサイトの予告編とサイトにある数点の写真。それらから察すると、大丈夫だ。これは牧春エンドだ。

というか、えーと、信じる、信じたい。まだ諦めてはいない。というか、お願いしたい(涙目)。

予告編では、夜の橋の上で牧君が「ふっざけんじゃねぇよー!」と叫んでいる。新郎タキシード姿の春田さんは泣きながら何かを言っていて、希望的観測では彼は向かい合った部長にぎりぎりのところで謝っている。部長は「君と会えて良かった」とつぶやいている。

写真や画像から察するに、ちずちゃんも武川も牧君の背中を押している。

大丈夫だ。(部長派の皆さま、ごめんなさい)

牧春ハッピーエンドの鍵を握るのは、春田さんが”分かること”だと私は思う。

別れを切り出された春田さんは、母親にきつく叱られた子どものように、ちゃんとするから、そばにいてほしいと言う。あさっての方向に一生懸命で、目の前で泣いている牧君をただ抱きしめて心臓の音を聴かせてあげればいいことに気づかない。多分、人として向かい合う相手に対してはすっとできることなのに。牧君相手だとなぜこうなる・・。

春田さんには牧君にキスをして、あなたでなければダメなんだと伝えてあげてほしい。ただ、彼はおそらく、もう好きじゃないという牧君の言葉をそのまま受け止めてしまって何も動けない。牧君への好きが異性への想いと違うのか同じなのか、違っていても愛なのかが分からない。精一杯で必死で一杯一杯でかわいそうで、田中圭さんの演技はそのことを見事に伝えている。

金子大地さん演じるマロ君ができることを、春田さんはできない。マロは予告編ではすっかりいい男に育っているように見える。必死で誰かを愛することは人を大人にする。マロ君はきっぱりと強い目で蝶子さんに近づいていける。

 

後、第6話のつっこみどころの一つはこれ。牧君は家の鍵が開いているのに気づいて虫捕り網で防御しようとしているけれど・・。それ、かなり弱い武器だと思う!かわいい牧君ショット、お礼申し上げたい。

後1週間でこの物語は終わる。終わった後、画面には田中圭さんと林遣都さんがにこやかに現れてDVD発売決定を知らせてくれるはずだ。あれ?公式だった?妄想だった?

ええと、妄想でもいい。それを頼りに1週間、生き抜きたい。私には宝塚歌劇団という頼りになる先もある。大丈夫だ、きっと(涙目)。