代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

月組・NOBUNAGA(信長)/Forever LOVE!! 感想 お芝居編:信長の孤独と帰蝶の愛、ロックで踊る武将と舞台の象は必見!

皆さま、こんにちは。昨日はダブル観劇(正確には1.5観劇)で疲れてましたが、一夜明けて、おばちゃん書くわ!ネタバレでも!!むしろそっちの方が皆さまにお役に立つかもしれないし。

と言いますのはね。最初の感想で書きましたように、1回目の観劇では自分の中にあるわかりやすい戦国のストーリーと舞台の群像劇がすれ違って、「え、あれれ」という感じで終わってしまったのです。でも、お芝居は良かったのです、2回目見たら。

miyakoguの感想など、退団公演のうねりの中では大海の一滴に過ぎないわけですが、商いは小さなとこからこつこつとだすしね。オスカル様とはえらい違いやし、途中からきよし師匠が入っているけど、書くわな、おばちゃん。

もちろん、ネタバレ嫌やわ、と言う人は読まないで下さいね。

 

1.はるか遠くまで見える信長の強さと弱さ

・人間五十年からロックへ

幕開きすぐ、「人間五十年」で始まる有名な幸若舞の「敦盛」を満天の星のもと、白いお衣装の真咲さん演じる信長が一人で謡い踊ります。朗々とした真咲さんの声、パンフレットで大野先生が紹介されていますが、本格的な囃子をということで、藤田流のお家元、観世流の家元預という方々の録音で、聞いていてぴしっといたします。信長が始まる!という期待感ばりばりです。

そして、ここで一転、照明が赤に変わり、ギュイーーンというギター音とともに、ロック音楽が始まり、武将、兵士達が踊るのです。かっこいいですよ、このオープニング。

何回かある武将ダンスの中で目立つ背の高い武士顔、誰?と思ったら、輝月ゆうまさん(前田利家)でした。とてもお似合いです。髭がとてもよくお似合いでそのまま時代劇いけますやん?というのが有瀬そうさんの柴田勝家。本公演でご退団ですが、気合を感じます。

※輝月さんは何回かある武将ダンスの後の方で出てこられます。冒頭には「遅れてかけつけた」体で出てこられます。念のためね!

 

・帰蝶が投げかける信長への問い

舞台は桶狭間で今川義元(光月るうさん)が既に逃げようとしている場面です。愛希れいかさんはそうきますか?!という凛々しい姿でご登場。うつけ者時代の風貌かという信長が義元を討った後、斎藤道三の娘である愛希さん演じる信長の妻=帰蝶は、清洲城(現在の愛知県清須市)のままではいけないのか?と信長に問いかけます。

信長が勢力を拡大し京へ出ていくことは、すなわち、その進路上にある帰蝶の故郷、美濃(現在の岐阜県南部)を征服することを意味しています。

一幕冒頭のこの場面、実は物語を貫く非常に重要な場面なのですね。

清洲で信長と一緒に生きたかった帰蝶、一方、天下への道筋が見えてしまっている信長。家臣達もそんな信長に心酔し、ついていきますが、信長に見えているもの、信長が背負っているものを完璧には理解できていない。そこが後の造反につながります。

その「見えているものの差」に付け入ろうとする義昭、ポルトガル。そしてそこを動かそうと暗躍するのが珠城りょうさん演じるロルテスなのです。

 

・討ち捨てられた者、置いていかれた者

また、討ち捨てられた者、置いていかれた者の悲哀を帰蝶は理解しています。故郷を滅ぼされた身として。しかし、勝ち続けなければならない宿命の信長は、その気持ちがわからない。

家臣の大切な人を討ち捨ててきたが故に、恋人である妻木(朝美絢さん)を切られた佐脇良之(暁千星さん)の造反、妻木の兄である明智光秀の最後の謀反になるのです。暁千星さんはお歌がお上手になられていますね。ダンスがうまくリズム感のある方は歌の上達がお早いように思います。

妻木は鍵を握るとても重要な存在です。皆さま、あーさのミニスカ網タイツ(スカートは斜めね)とロン毛のお綺麗な横顔、真咲さんとの絡みしか見てはれへんと思うけど、これ重要ポイントですから。←もちろん、miyakoguも最初、そこしか観てないけどね!( ̄▽ ̄)

あ、絡みは一瞬でむしろ、あーさが強い感じですから、そんなに官能的なシーンではなかったと思います。

 

2.真咲さんの信長と象

真咲さんはね、若き信長、ものすごくかっこいいよ!

スカステで見はった方も多いと思うけれど、長髪で。年齢を経るたびに、威厳が出て行く感じで、激しい気性、天才であるが故の孤独を上手く出されていたと思います。自分に見えているものがなぜ皆にはわからないのか、という苛立ちと孤独の中に、彼はいつもいるのです。松下幸之助さんの本とか贈った方がいいかしら?あ、時代が違うか・・。

すごかったのは象ね!!!舞台に巨大像が登場するから、これはね必見!!しかも象は足利義昭の家臣からしょうもないお触れの紙を渡されそうになったとき、めっちゃ鼻で威嚇するから。大野先生、さすがです。馬の次は象でした。

象はインドから来たものと思われますが、ゴア(現在のインド西海岸、当時はポルトガルの植民地)から連れてこられた奴隷であった弥助(貴澄隼人さん)は、奴隷ではなく家臣と扱ってくれた信長に心酔しており、絶対的味方です。かっちょええわ、貴澄さんと象。

 

3.「織田信長は私の獲物」の意味とロルテスの救い

・織田信長は私の獲物

帰蝶との別れの場面は周囲の方も涙、涙でした。皆さまも、「あの男は私の獲物!」って、一体何だろうと思っておられましたよね?

日本を属国にしたいポルトガルのためにめぐらしたロルテスの策略と、信長を押さえ込みたい足利義昭の利害は一致しており、全国の大名に信長への造反の機運ができていくのです。

天下統一に向けて雌雄を決する武田信玄との戦いを目前に、岐阜城に集まっている信長と家臣団。ここの展開は最初、呆気にとられました。

恋人を切られた恨みを抱えていた佐脇良之(暁千星さん)が切りかかり、そして豊臣秀吉(美弥るりかさん)、明智光秀(凪七瑠海さん)が信長に造反しようとするのです。おそらくは陰でそういう検討や謀略もあったかもしれませんが、舞台では直接的に信長と対峙する形で見せておられて驚きました。

この場面に帰蝶が登場し叫ぶのです。「秀吉、光秀、下がれ」と。そしてこう言うのです。

 

「織田信長は私の獲物」だと。

彼女の真意は、織田信長に家臣が謀反を起こし、彼が切られるようなことがあるのなら、その時はむしろ私の手で幕を引く。そういうことなのだと思います。

もちろん、帰蝶も信長に恨みがあるのです。しかし彼を清洲に連れて帰り、信長の腕に抱かれて二人で馬に乗り野駆けした頃のように、幸せに生きることが望みなのです。帰蝶の愛は恨みを越えたのですね。

 

・ロルテスを救う信長の言葉

帰蝶は「もう終わりに致しましょう」と信長に言います。

しかしそれでは、日本を属国にしようというポルトガル、ひいてはロルテスの野望は消えてしまいます。ここまで築き上げてきたのに。そこで珠城りょうさん演じるロルテスが登場します。

信長には死んでもらい、混乱の中で足利義昭の支配を確立し、ポルトガルの傀儡政権にしようという魂胆かと思われます。

ロルテスが銃を構え、そこで帰蝶が信長の前に立ちはだかり、彼を銃から守り、倒れます。泣けるわ・・・。

 

息も絶え絶えの中、死ぬのなら、あなたの手で私を切り捨てくださいと帰蝶は信長に言います。私を越えていけ、武田信玄を討って天下を統一せよ、あなたの好きに進めばいいと、それが帰蝶の最後の愛であったと理解しました。その願いに信長は応えます(撃たれたことにより息も絶え絶えの帰蝶が、介錯を頼んだという理解ではないかと)。

彼が失うのを唯一恐れていたであろう存在である帰蝶をも切り捨て、その屍を越えていく。まるでオスカル様のフランス革命のようですが、ちょっとそれは置いておいて。

苛烈で過酷な天才の運命です。

野望の実現を目前に、野望がついえたロルテスは言います、「自分は名誉ある死を選ぶ、だから撃ってくれ」と、信長に銃を渡します。しかし。ある物が彼を銃弾から守り、ロルテスは死ねません。

珠城りょうさんのロルテスは「私には名誉ある死も許されないのか!」と叫ぶのですが、信長はこう声をかけるのです。

 

「わしは恨みで人を殺したことはない」と。

汚れた家名とさげすまれた人生を歩んできたロルテスへ投げかけられた言葉。彼はむしろほっとしたのではないかと私は思いました。恨みだけを生きる意味にしなくていい。それはロルテスにとって、宗教では得られなかった「救い」だったと思うのです。

そして、ロルテスは信長と運命を共にすることになり、数年後、本能寺の変の際には「上様」と現れます。最後、どうなるかはこれは観劇のお楽しみに。

 

4.印象に残った方々

既に挙げた方以外で、印象に残ったは次の方々です。

 

・宇月颯さんの浅井長政

垂らした髪に優しい微笑みがとても素敵です。お市の方(海乃美月さん)も、そりゃあ、うっとりするわ。史実でも美男美女で仲良しだったそうですしね。

ただ、浅井長政は信長には歯向かいます。象の上に座りはるか高くから長政を責める信長、応える長政、お市の方。この場面での三人の歌唱は非常に迫力がありました。

 

・沙央くらまさんの足利義昭

こまちゃんは、ほんとに上手い!シェイクスピアで短気で喧嘩っ早いけれど暖かな役者を演じていたと思ったら、今度は結構な策略家だけれど実力が伴っていない公家将軍を、絶妙に演じておられます。

 

・凪七瑠海さんの明智光秀

斎藤道三、足利義昭、織田信長と仕えてきた冷静な武将です。凪七さんの上品な佇まいがこの舞台における光秀と合致していて、とても魅力的でした。妻木=妹を殺された恨みもあり、そして、最後には信長が背負わなければならなかった「人々の夢、恨み、重荷」を背負う覚悟を決めて、信長を討つのです。このあたりの物語は、大野先生がお見事だったと思います。2回見たらよくわかりました。今回のお芝居の中で、退団される真咲さん以外でみると一番心に残った演技でした。素晴らしかったです。

 

・美弥るりかさんの豊臣秀吉

少しおっちょこちょいで、ねねが怖くて、しかし頭が切れて冷静な面がある秀吉をうまく演じておられます。猿というには、ちょっと美形すぎかな?(^^)

信長への造反が始まり、はらはらしていたところで、明るく飄々と矛先を納めるかのようなセリフ、お見事でした。

 

・千海華蘭さんの宣教師オレガンティノ

珠城りょうさん演じるロルテスの親友役です。最初の感想でも書きましたが、とってもかわいい、超絶かわいい。このくりくり金髪はぜひともご覧下さい。お茶目で心優しくて純粋で。孤独そうなロルテスのことを見守ってくれていて、本当にありがとうね(涙)。

 

最後に、珠ちゃんはね、画像より断然かっこいい。脚が長いですよ、あの方。おるわ、こういうイタリア男と言う感じの長髪とお髭。片方だけ肩にかけたマントで颯爽と歩く珠ちゃん。ショウでは一転、穏やかな笑顔で颯爽と踊っておられます。

一夜明けたら、お芝居への理解も進みました。あの武将ダンスと象はとにかくぜひご覧くださいね。真咲さん節は炸裂しているので、好き嫌いはおありになると思いますが、なかなか新鮮な「ロック戦国群像劇」その根底にある信長の孤独、帰蝶の愛、ロルテスの救い。ぜひどうぞご観劇ください。