代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

宙組カジノロワイヤル 作品感想 大劇場で完成、東宝組・配信待ちの皆様はお楽しみに!

皆様、こんばんは!4月15日(土)の公演も無事に終了。宝塚大劇場も残すところ3公演です。

開幕間もない頃、真風さんがお芝居ラストで「アデュー 思い出は募る」と歌われると、自分自身の真風さんの思い出がぱーんと溢れ出て号泣していました。周りからもぐすんぐすん。千秋楽ではまた泣くと思いますが、今はなぜか不思議と晴れやかに爽やかに観劇しています。

今日のMy前楽観劇中に、なぜだろう?と考えたのですが、それはこの作品の持つ楽しさを、”遠慮なく”宙組の皆さんが表現し始めたからではないかと思います。

「007シリーズ」。次のボンドは誰なのかがニュースになる程、有名な映画シリーズの原作小説の一つを題材に、小池修一郎先生が自由にくすっと創作された今作。最初、宙組の皆さんも、あの「007」だと構えたんじゃないかと思うのですね。観客もしかり。

でも、いつしか宙組の皆さんが小池先生の脚本に自由に楽しく応え始め、退団作品としてや大作だという緊張感から自由に飛び立った。その楽しさが観る側にも伝わってきたように思います。

大劇場で完成された宙組「カジノ・ロワイヤル」。東宝組の皆様、配信をお待ちの皆様はどうぞお楽しみに。

 

1.エンタメとしての力 お芝居を変えていった桜木みなとさんの力

初日すぐの頃、聞こえてきたのは小池先生オリジナルにありがちな、あるいは退団作品特有のとんちき作品だ、駄作だという声でした(すみません、私が言ったんじゃないです)。ただ、パンフレットの小池先生のご挨拶を拝見し、実際に観劇してみると小池先生が確信犯的に自由に楽しく創作された気がしました。

私も含めて、宝塚ファン特有のやや斜に構えた思い込みがあるかもしれない?

先入観が一切無い義母が同行して観劇した時、映画好きの義母が「とっても楽しかったわ」と純粋に楽しむ様子を見て、そう思い始めました。

高齢の方は退屈したり暗めの場面が続くと、うたた寝をされることが多いのですが、どうも様子が違う。純粋に心から楽しんでおられる。

その点を、本日、三井住友カードさんと友の会の共同貸切の公演を観劇して確信しました。お付き合いなのか「007」だからと来られたのか、男性陣が多い一角があったのですが、桜木みなとさん演じるミシェルと天彩峰里さん演じるアナベルの場面に爆笑されていたんですね。

敵味方入り乱れてどたばたの最中なのに、真風さんボンドから「お前の連れの女を警察から助けた」と言われると、「ありがとう」ときちんとお礼を言う桜木みなとさんのミシェル。

ディルフィーヌが背の高い男が助けてくれた、「(キスが)とっても上手かったけど」と言うのに対して、ミシェルが発する「ひゃょえーーー」という声へのくすくす。(ル・サンクでは「ええっ?!」とあるだけです

天彩峰里さんアナベルが鞭をぺちんとして、寿つかささんが「君は何の先生?」と問いかけると、こらえきれないという感じの爆笑が聞こえてきました。

その後はもう、ミシェルとアナベルが出てくるだけで、くすくす。何をしてくれるんだろうという期待感、笑うぞと待ち構えている空気が伝わってきました。本日のずんちゃんの鎧への貸切アドリブは「三つの約束、命の危機でも、隅に追いやられても、友だち(とのこと)」 拍手喝采です。

真風さんが鎧をかぶったずんちゃんを振り返り、「だるまさんがころんだ」のようになる場面も、公演が進む中で徐々に出てきたんですね。

お芝居終盤、みねりちゃんアナベルの後ろに、明らかに隠れていますというフォルムでコートに隠れて出てくるずんちゃんミシェル。期待感が高まる客席。

刑事につかまりそうになるところ、銃を奪ってみねりちゃんアナベルが言う「逃げて」。私はあの一言がとても好きなんです。姐さんぽい、でも人情も愛情も感じる声。

ミシェルらしいまっすぐさで応える二人のやりとり、間にはさまれた秋音光さんの刑事の間(ま)。両脇で見ている警察官が日によって、お熱いねとなったり、拍手したり。貸切の今日、二人が抱き合う場面では客席から祝福の拍手まで出ていました。傑作でした。

私はこの作品が公演途中で大きくぐっと変わっていった大きな要因の一つに、桜木みなとさんの存在があったと思います。役割的にそうだったというのもありますが、彼女が自由に動き始めることで、ターニングポイントを創ってくれたというか。

最初に観劇した時、うん?今の時期、政治的にどうかな?という場面があったり、ヒトラーを出してくるのはむむむ?と思ったりしたのですが、そこを越えた楽しさが増していきました。「007」シリーズだからと言って気負わずに、いつもの宝塚のように自由に楽しく演じていいんだと、ぐっと変えていったのは実はずんちゃんの演技ではないかと思います。そこから、皆さんの自由な小芝居が各場面で始まっていったというか。

桜木みなとさんの持つ圧倒的な明るいエネルギーの力、感服いたしました。

 

2.ひたすら男役芸を見せる真風さんのスタイリッシュ・ボンド

ジェームズ・ボンドという超有名なクールでスタイリッシュで色気のあるキャラを、男役として演じて見せる。退団公演にふさわしい男役としての仕上げのようなお役だと思います。

同時に、非常にチャレンジングでもあります。

とにかく格好良くないと、キザに決まらないとだめ。白いタキシードに赤い花をつけて、ポケットに手を入れてただ立っているだけでも「ほぅっ」と似合わないとだめ。銃を構えるしぐさが決まる、脚が長く、撫でつけた髪も似合わないとだめ。そういう役です。白いタキシードも、黒いタキシードも、スーツも、ダブルのスーツも帽子も革の手袋も黒タートルも全部ぴたりとはまってこないとだめ。

大変高いハードルだったと思います。そこを真風さんは軽々と越えて観客を魅了していきます。真風さんの究極の男役芸と衣装の似合いっぷりをただひたすらに愛でる。この作品の第一義的な妙味はここにあります。

それと、案外、見落とされがちなんですが、実は真風さんが何気に演じた後、再演で真風さん以外の方がされると、どうも違う感じがする役ってあるんですね。私の贔屓目がもちろんあるのですが、後で振り返るとさりげない良さに気づく。そういうタイプの演者だと、私は思います。

私が一番好きなのは、ル・シッフルとの闘いで追い詰められた中で、真風ボンドが言う「案外本気だ」です。私は長年仕事をしてきて、一見そうは見えない男性の「案外本気」を何度も見てきました。仕事ができる方程、何でもない顔をしていて、いざとなると案外本気です。あのセリフに真実味を持たせて伝えるのは、実は大変難しいはず。お若い男役さんが同じセリフを言った時、どう映るかを想像してみると「案外本気」の難しさがお分かりいただけるように思います。

退団への心の叫びは、千秋楽後に書き留めます。

 

3.きっぱりと意思を持って旅立つヒロイン・潤花さんのディルフィーヌ

潤花ちゃんのディルフィーヌは、偶々得たロマノフ家の相続人という立場を受け止め、より良い方向で活用したいと考えるインテリ大学生です。彼女には自分が偶々得た力で少しでも世界に貢献できることがあるなら、やってみようと考え、実行に移そうとする意志の強さがあります。

誰かの庇護のもとでなく、自分の意思で、自分の足で歩いていこうとする強さ。

最後のキスを頼むのも、涙をこぼす訳でもなく声を震わせる訳でもなく。キスをした後は、きっぱりと後ろを振り返らずにボンドの元を去ります。

過ごす時間は短くとも、二人はパラシュートの場面で歌ったとおり、空を見上げて「どうしているだろう」と思う相手になったのです。

そういう人がいる、いない。これは人生の暖かみを大きく分ける出来事だと私は思います。そういう人がいるなら、遠く離れ離れでも生き抜くことができる。恋とは限らず、どなたにも実は心のどこかに持ち続けている存在があるのではないかと思います。

イケコさんに「やられたな」と思ったのはその点です。

宝塚作品というのは、歴史だったり有名な映画だったり、いろいろ枠組みは借りていても、実は普遍的な男女の出会いや男性同士の友情を描いていることが多い。というか、それしかないんですね。

どの作品も結局は、ある人とある人が出会った。その影響である人は変わった。たとえハッピーエンドでなかったとしても、その人の思い出をずっと心に持ってそれぞれが生きていく。これまでとは少し違う生き方で。

実にシンプルです。そして、シンプルが故に力がある。

私達が物語を必要とするのは、結局、誰かと出会って自分が変わった、自分の心の中に誰かがずっといる、その経験を追体験するためではないかと私は思います。

1968年、フランスで5月革命という若者の熱い革命があった年。ディルフィーヌは自分の理想に向かって自分の足で歩き始める。彼女は後ろを振り返らずに歩んでいきます。でも、彼女は、ボンドは、頬を撫でる風を感じ、太陽の匂いを感じた時、お互いをそれぞれに遠い街角で思い出す。そう思わせる去り方を、潤花さんは的確に演じておられると思います。

潤花ちゃん、本当にありがとう(涙)。

 

4.印象的な見どころ

私がお芝居の中で楽しみにしているシーンを下記に上げさせてもらいます。

 

・プロローグ!

言わずと知れたプロローグ。超やばいです。とにかくご覧ください。真風さんの超かっこいい登場から始まる、長身スタイリッシュな宙組の男役さんの群舞を!

 

・M長官の歌

「皇帝一家は~処刑されてしまった~」。松風輝さん、ルキーニですか?の場面です。「エリザベート」が各所で出てくる始まりですね。

 

・ヌーベル・アージュ(新時代)の場面

なぜにタンバリン?と思いますがヒッピー文化のもとのデモって、こんな感じだったんでしょうね?ここはもう、ひげに長髪の優希しおんさん、真名瀬みらちゃん、日替わりでいろいろ変えてくる輝ゆうさんをチェケラ!あなた達さ、バンドでデビューした方が活動資金ばりばりに稼げそうよ。何でも着こなす潤花ちゃん、大好きです。

 

・メゾン・ダムール

アナベル姐さんの歌姫が最高なんですよ。率いるダンサー娘役ちゃん達もコケティッシュで最高。でれてる男役さん達も楽しい。潜んでいるスメルシュのイリヤ(鷹翔千空さん)もちゃんと拍手。

 

・真風さんが歌うヒーロー・イン・ザ・ダーク

カチッと音をさせて煙草を吸う真風ボンド。かっけーーー!この音楽覚えておいて。後で試験に出ます(フィナーレの男役群舞)。

 

・カジノの歌(ざっくり命名)からル・シッフルの歌

回る~、回る~♪も、どこに~賭ける~迷う~迷わない~♪も妙に好きです。

登場する芹香斗亜さんル・シッフルの「人の運など~♪浮きもあれば、沈みもある♪」も好き。真名瀬みらさんと嵐之真さんの二人の用心棒のコミカルな動きも大好きですわ!後の場面で「資金を稼ぐためにクラブを経営」とル・シッフルが歌う場面のお二人、ぜひ注目を!楽しいんですよ。

それにしても、ル・シッフル。ラスプーチンに扮してパーティに登場というアイデアをなぜ思いつく?そして、なぜ実行する?(笑)

 

・ゲオルギー一家

ゲオルギーおじ様の寿つかさん、何と言うか懲りない強さがあって楽しい。花菱りずさんのノリノリマダムの顔芸をぜひご覧ください。あの方、本当に最高だから。

グレゴリーとアナトリーのナニキョロ兄弟も随所で面白いのですが、私が好きなのは戴冠式でディルフィーヌちゃんの若者らしい青いスピーチにうんうんうなずき、「素晴らしい!」と拍手する風色日向ちゃんのグレゴリー。あの人、案外いい人だと思うのよ(笑)。

 

・ホテルテラスからのイルカソング

ミシェルとディルフィーヌがいいコンビなのよ。柵を越えようとする場面ね(笑)。

高らかにボンドが歌うイルカソングも。最初は、はぁ?なぜにイルカ?と思っていたのですが、今では「ええ歌や(涙)」と刷り込まれてしまいました。必聴です。

 

・バカラ対決

超かっこいいの。とりあえず見て!一回負けてどうする?となったところで颯爽と登場する柴藤りょうちゃんのCIAフェリックス・ライター。もう美味しいわぁ。

ぼやきがちなフランス情報局の瑠風輝さんのルネと、春乃さくらさんのヴェスパーのカップルも素敵です。はるさくちゃんの堂々した演技に、美しいプロポーションも素敵。

一幕は少し長く感じるかもですが、二幕はどんどん進みますので、どうぞお楽しみに!

 

・古城内の廊下

ミシェルをル・シッフル配下の2人が連れて行く場面。

あのさ、歌っているミシェルをスポットライトで照らすのはいいのよ。泉堂成ちゃんと鳳城のあんちゃんをスポットライトで照らしたあげく、顔を寄せて煙草の火を分け合う必要あります?(シガレットキスって言うんだっけ)。あ、美形を売り出したい?わかりました!💕

 

・拷問室

縄を解いた真風ボンドちゃんが、律儀に椅子と縄をちゃんと片付けていくのが妙にツボです。

 

・古城内の迷子三人組

ね、大丈夫?CIAとフランス情報局。頼むから方位磁針でも持っていて!(笑)

 

・スメルシュの部下思いボス

鷹翔千空さん演じるイリヤ。部下のボリスがやられそうになると、こっちを放って加勢に回り、そのすきにパラシュートで脱出しちゃうボンドとディルフィーヌちゃん。

イリヤ、ええ子や。こってぃイリヤのスピンアウトもの、見てみたくなります。

 

・パラシュート場面

この広い世界に生まれて♪ 号泣場面。まかかのファンは思いっきり泣きましょう・・。

 

・朝、旅立つ人々(場面名は「第10場 カジノ・ホテルの廊下」、「第11場 ルーレットの間」です)

ここのBG「それぞれの旅立ち」というのか・・(涙)。(ル・サンクにありました)

退団者がそれぞれに旅立っていくのね・・・。毎回、ええ声を聴かせてくれた澄風なぎさん支配人も・・。すっしーさんにもえこちゃんが掛ける「お疲れ様でした」の声が優しく切ない。

ルーレットの場面で、ようやく「いつか黒海に行く」という約束をとりつけたボンドちゃん。良かったね・・。でも、この約束はほぼ実現されないだろうというニュアンスが感じられます。おそらく、ボンドとディルフィーヌの人生は二度と交錯することはない。でも約束はしたい。そんな淡い期待が伝わる優しい場面です。

一人残されるボンド。イケコ先生の超憎いところは、次の旅に出るボンドの後ろで、カジノの日常が始まるところです。

カジノはそこにある、日々は続く。ボンドの日々も続いていく。でもそれは、これまでと同じ日々ではない。

彼はこの地球のどこかで生きている人のことを胸の中に持ちながら、生きていく。「君に会えて良かった」、そう歌うボンドは、見ている私達と同じ一人の人間です。

ボンドは心の中にディルフィーヌを納めた場所を持って生きていく。真風さんは潤花ちゃんとの出会いを持って生きていく。そして、私達は真風さんを心に納めた場所を持って生きていく。たとえ会えなくなったとしても。

わぁーーー、泣きましょう・・・(涙)。

コミカルな感想を書こうと始めたのに、まんまと結局、泣かされてしまいます。小池先生、恐るべし。退団公演の「案外本気」なお仕事に拍手を送ります。

それにしても、千秋楽、どうなるんでしょうか・・。怖い、僕は~怖い♪

ヅカファン、何でも歌いがちですね・・。