代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

宙組トップスター・真風涼帆さん退団に寄せて 客席を包む舞台から吹く風

宙組トップスター・真風涼帆さんが明日、6/11に退団される。幸いにも宝塚大劇場で千秋楽を見送ることができ、その日以来、ずっと考えていたことがある。

真風さんがかっこいいこと、上品な色気の持ち主であること、完成された男役としての立ち姿をみせてくれていること。そこはもう十分にわかっている。

ただ、真風さんの舞台から受け止めている「言葉にできないもの」を、私は何とかして言葉にしたかった。

 

1.真風さんから客席に届く風

宙組の一代前のトップスター・朝夏まなとさんは「宙組の太陽」として慕われ、文字通り明るい光で劇場全体を照らすようだった。

100周年時に宝塚歌劇団を牽引された元星組トップスター・柚希礼音さんは、最後列の観客にまで「あなたを見ている」と確実に思わせてくれる強い光を放つサーチライトのようだった。

真風涼帆さんが放つ光は、どのような言葉なら言いあてることができるだろう?

大劇場での千秋楽以降、ずっと考えてきた。

まぁ様の太陽に比較するなら、冴え冴えとした月の光?ううん、ちょっと違う。

「カジノ・ロワイヤル」を一緒に観劇した娘は真風さんの光は、ふわっと気づくと包み込まれているようと表現し、真風さんがラスト表紙を飾った「歌劇 2023年6月号」の「夢・万華鏡九十二」にて、小林公一氏は以下のように表現されている。

彼女の舞台は芝居であれ、ショーであれ大きなものにすっぽりと包まれる雰囲気があると私は常に感じていた。

出典:小林公一氏,「歌劇 2023年6月号」,76p

20歳の娘と長く宝塚歌劇をご覧の小林氏が同じように感じる偶然?

いや、偶然ではないはずだ。

私達は結局、劇場をひたひたと満たす真風さんの静かで熱い想い、優しさ、客席に愛を届けたい、愛を送り返したいというあの方の想いにいつも包んでもらっていたのかと思う。

そして、その愛は、風のように客席に届いた。

 

私が真風さんと最初に出会ったのは2013年の星組「ロミオとジュリエット」の死。役替わりのことも何一つ知らず、2回目か3回目の宝塚観劇だったと思う。冒頭、黒い幕の間からシルバーグレイの長い髪を美しく翻しながら、美しい身体の持ち主が音もなく現れ、物語の幕開けを長い手足を伸ばして告げた時。

文字通り、舞台から一陣の強い風が客席に吹いた。

真風さんのファンは、いろいろな場面で真風さんと出会って来られたと思う。その時、一陣の強い風が吹かなかっただろうか?

私達はそんなふうに、時に誰かに惹きつけられる。強烈に。

 

2.風が含む多様な色の光

不思議だったのは、舞台から届く真風さんの風は、本当に多様な光、すなわち色をはらんでいたように思えたこと。

私の身近にはおそらく共感覚に近い感覚を持つ人が居て、その人は数字やアルファベットに色を感じるという。私自身は共感覚の持ち主ではないし、もちろん衣装の影響が強いのだけれど、真風さんから届く風にはその時々の色を感じるようであった。

たとえば。

「死」の役に代表されるようなクールでシャープな風は、ほぼ黒に近い深い紺。

「黒い瞳」のニコライから感じる暖かな風は、柔らかな光をまとった白。

「シトラスの風」から感じる爽やかな風は、綺麗な薄い青。

「天は赤い河のほとり」から感じる熱い風は、上品な赤。

「Never Say Goodbye」から感じる風は、情熱を秘めた光沢のあるシルバーグレイ。

「Fly With Me」は、全編、強い風が吹いているようだった。

「カジノ・ロワイヤル」はバックでずっと流れる音楽とともに、心地よい海風がずっと吹いているようだった。

 

「名は体を表す」ということの不思議さを改めて思う。

音楽学校を卒業した際、タカラジェンヌさんは芸名を付ける。その時、意識的にせよ無意識にせよ、確実に自分が「こうありたい」という文字を選ぶはずだ。風は日々変わる。真風さんの中にもいろいろな風があるはずだ。

たとえば。

うららかな春の日の暖かな優しい風。

けだるい夏の午後の湿気をねっとりと帯びた風。

秋に吹く、こちらの心をきゅっとさせるどこか寂しげな風。

きぃんと冷えた日の透明な美しい風。

そして、こちらの心をまるごとさらっていく嵐のような強い一陣の風。

 

真風さんは突然現れて、こちらの心をさらっていった一陣の風だった。

そして、時々の色を乗せた風を舞台から吹かせ、その光の粒と風で劇場中を満たしてくれていたんだと思う。

前からさぁっと風が吹いて、気づいた時にはもう、ふわっと光の粒子で包み込まれているような一陣の風。

 

3.忘れない、ずっと覚えている

宝塚大劇場の千秋楽でも、それは変わらなかった。

サヨナラショーの真風さんは悲しいとか寂しいというより、一層楽しそうで、これまで自分が受けてきた愛を、客席に、加えて映像を通じて映画館やお茶の間に届けようと、一瞬一瞬の時間の粒に、誠心誠意、自分の愛を乗せて舞台から送っておられたと思う。デリシューからのマカシャンで、あぁ、今、私達は今、確かにこの同じ時間を生きていると感じた、薄い綺麗なピンク色の光を含んだ風。風に乗って届く光の粒。

サヨナラショーのラスト、「Never Say Goodbye」から「愛の真実」を歌う潤花ちゃんもまた。潤花さんの歌は愛の粒で劇場中を満たすようだった。絶唱だったと思う。

 

私は今も、ラストの「One Heart」を歌う前に、大きく吐息をついた真風さんの姿が忘れられない。初舞台の時の袴姿に戻る前の大劇場でのラスト。

背負ってきた多くのものを全うできたことを確認するかのような吐息。

退団特集のBlu-ray「真風涼帆 Recollections」で見た大階段に上がる前の袴姿の後ろ姿を私はずっと忘れないだろう。

手術後に病室で見ていたNHKお正月の中継「アクアヴィーテ」の煌びやかな輝きをずっと覚えているだろう。

 

今日6/10の2公演目、前楽は無事に幕を開けている。明日、2023年6月11日のラスト1公演で、真風さんの男役姿は終わる。

最後の最後、世界への配信という大きなチャレンジがまだある。最後まで大きなものを常に背負ってきた揺ぎ無い人。その中に、熱さも純粋さも涙も持ち合わせた人。

この人の舞台に間に合って良かった。

ロミジュリの冒頭、あの時、一陣の風にさらわれて良かった。

 

真風涼帆さん、本当にありがとうございました。

これからのあなたの人生に大きな幸があることを、心から願います。同じ空のもと、この地球のどこかで生き続けているあなたと、いつか何らかの形で再会できると信じて。

また会う日まで。ありがとう。

(完)

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