代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

宝塚宙組・Never Say Goodbye感想 今、ここで共に生きる ー真風涼帆さんの全身演技力の卓越

明日、いよいよ宝塚歌劇団宙組「Never Say Goodbye ーある愛の軌跡ー」が千秋楽を迎えます。一時も気を許せない状況ですが、最後まで無事に完走できますように。今日は、そのネバセイの観劇感想をお送りします。

映像の発売はまだもう少し先の5/27。TCAさんのこちらのサイトの画像では、トップスター真風涼帆さんがこちらに向けてシャッターを切っておられます。

www.tca-pictures.net

さて、明日には千秋楽映像配信もあるのですが、明日観るとまた、うきゃーーー!!真風さんかっこいい、胸元の開襟きゃーー、毛の流れが完璧というのと、最後のフィナーレですべて飛んでしまいそうなので、あえての今日、宝塚大劇場で観劇し感じていたことを感想記事としてまとめておきたいと思います。

 

1.Never Say Goodbyeという作品の強さ

1)世界情勢とリンクする観劇体験

再演が決まった時、古くからの宝塚ファンから聞こえてきたのは「暗いスペイン内戦の話やし、パスやわ」。娘も「スペイン内戦の話かぁ、うーーん」と関心が低かったことを思い出します。(その後、娘には絶対に見た方がいいと慌ててチケットを取りました)

パンフレット冒頭の小池先生のご挨拶からは、稀代のトップコンビの退団公演であると同時に、怪我から復帰されたばかりの(復帰できる状況ではなかったと聞きますが)和央さんを迎えた緊迫感に満ちた集合日の様子が伝わります。

映像では、真風さんの初舞台作品とあって繰り返し繰り返しラインダンスを拝見。しかし、その内に花總まりさんの絶唱、和央ようかさんの匂い立つような男役さんの色気に驚き、何度も拝見した作品となりました。ただ、確かにちょっと照明の影響か全体的にやや暗め?かな、退団公演からくる切ない緊迫感の方がより印象に残っています。

その再演。おそらく当初イメージされていたのは、小池先生のご挨拶末尾にあるように、コロナ禍と戦う社会、その中でのOne Heartだっただろうと想像します。

しかし、まさかのウクライナへのロシア侵攻。人々が武器を持ち、海外からウクライナに武器が提供され、一つの国をめぐって国際社会が大きく動く。一国の命運を我々も同時代に生きて見守ることになるとは、思ってもみなかったことでした。

私は、たまたま若い頃に少しだけ英国で勤務したことがあります。当時は第二次中東戦争の渦中で、新聞の見出しの「under the war」という文字に、今、戦時下の国にいる?!と驚きました。ミサイルが命中する映像をTVニュースで見て「やった!」と喜ぶ英国人同僚たちに驚く日本人。戦場は遠くでしたが、明らかに戦争がそこにはありました。

この作品がまさか、このような世界情勢の渦中に上演されるとは、宝塚歌劇団も小池先生も全くの予想外であったと思います。スペイン内戦で戦う人々、それぞれの思惑で手を貸す外国、オリンピアードに集まりそのまま残る外国人部隊。絡み合う複雑な様相、本来はさらにもっと複雑でしょう。

私たちは、日々流れてくるニュース映像と重ね合わせるように衝撃を受け、戦う人々の心を表現する宙組のコーラスに胸打たれ、その中で動いていく人々の心を受け取り、切ない離別に泣く。世界情勢が私たちの観劇体験を大きく変えた側面が相当あったと思います。

ただ、世界情勢とあたかもリンクするこの物語が、では戦乱の物語かというとそうではない。副題にあるとおり、その中で生きた一人の男性と一人の女性の「ある愛の軌跡」こそが、この物語の本質だと私は思います。

私は、宝塚歌劇団が根底に持つ強さがここにあると思うのですね。

 

2)日々の中にある光

恋にうっとりし、悲恋に涙し、シリアスな悲劇を考察するかと思えば、明るくてわかりやすい作品も大好き。複雑な世界史だろうか日本物だろうが、書籍を読み込み予習はばっちり。ロマンにうっとり、人情にほろり。タオルハンカチでは足りずにタオルを持っていくこともあれば、ジェンヌさんのちょっとしたしぐさに可愛いと盛り上がり、アドリブを観察し、オペグラでスターを追いかけ、全体像を全く把握せずに映像で初めてこんなのあった?!とびっくりする。

我々はそういう大変愉快な観客です。(ちょろいオタクとも言う・・)

ただ、どのような舞台であれ、宝塚歌劇団の舞台には一組の男女の出会いが必ず描かれいて、人の多くが持つ自身の物語や憧れにそっと触れてくる面があると思うのです。

恋だけでなく親子の情や友情、そういったものも含めて「心の出会い」と言えばいいでしょうか。誰かと誰かが出会い、その中で始まり動き出す人生の新たな物語。その中での主人公の変化が描かれる。

人生は案外悪くないという、人生の「ささやかな善き希望」を見せてくれる信頼を、私は宝塚歌劇団の舞台に持っています。

少し前のtweetで、私は以下のように書きました。

宙組ネバセイ 圧巻でした!!
これは暗いスペイン内戦の話ではなく、いかなる状況下でも自身が見つけた生きる意 味を貫いた人々の力強い物語だ
今、この物語を見事に上演できる宝塚歌劇団、小池修一郎氏のクリエイティビティ、ワイルドホーン氏の楽曲に心からの拍手と敬意を👏

この物語から私は、どのような状況下であったとしても人は生き誰かに何かを残すことができるという希望を感じたのですね。

世界的に見れば圧倒的に豊かで平和な日本であっても、日々を生き抜く私たちは何かと戦っていたり、どうしようもない不条理を突き付けられたりします。ささやかな喜びを得たり浮かれたり泣いたり、ヒリヒリとした哀しみややるせなさを抱える日もあります。

私たちは愉快な観客ですが、その日々は存外に複雑で不条理に満ちています。私自身、少し前までまさに「闘病最前線」で戦っていた訳ですが、今でも闘病アカウントには訃報が度々届きます。

そんな日々の中で感じる「匂いとぬくもり」こそが「眩いほどの光を放つ」鮮烈な出会いであり、記憶に残り、喪ってもなお心を温める追憶となる。

眩い光は、結果としての輝かしい成功や勝利だけではなく、日々の時間の中に、誰かと出会い変わっていくプロセスの中にこそ、宝石のように煌めいている。

この物語は、そこを描いていると私は受け止めています。

 

2.真ん中に立つ真風涼帆さんの力

1)ジョルジュの変化

きゃあきゃあ、ばんばんんばん!と書きたいことは山ほどあります。

ただ、今日はそこを封印。この作品で私が感じた真風さんの表現者としての強さを書きたいと思うのです。

この作品で真風さんが演じる国際的に著名なカメラマンのジョルジュは、スペイン内戦を記録する人間です。世界に何が起こっているかを伝える素材が無ければ、真実は伝わらない。その役割は重要です。

しかしながら、その立場を容認していたはずのヴィンセントが後半、詰め寄るようにあくまで第三者。「俺はデラシネ」とジョルジュが歌う通り、ここに根を下ろした人間ではありません。

しかし、彼はヴィンセント達に出会い、銃で撃たれた少年の治療を行い、アギラールにキャサリンを連れて行かれ、彼女を取り戻し戦列に加わる中で、歴史の渦に主体的に関わっていきます。最初はおそらく意識せず、でも最後は明確に自分の意思によって。

あれほど常に持っていたカメラを置くシーンはジョルジュの決定的変化を示すものでした。

 

2)多様に変化する感情を全身で伝える真風涼帆さん

私が今作品で真風涼帆さんの演技に驚かされたシーンは1幕ラストと、2幕のキャサリンとの別れのシーン直後です。

小池先生特有の1幕ラストは、大勢の人が舞台にいて音楽が盛り上がり、ばばーーんと終わって、ほぅとため息をつく。そういうものですよね。

No No Pasaranと繰り返すリズムと旋律が舞台の緊張感をぎりぎりと上げ、「俺たちはカマラーダ」と小休止のような明るさを取り戻しここで幕?と思う中、アギラールとコマロフが登場し、2幕の仲間割れを予感させる一発触発の緊張感が一気に高まります。

静かな渦のように襲ってくる緊張感。その真ん中ですくっと立ち、静かに歌い始める真風さんジョルジュのOne Heart。

ぞくぞくっとしました。

この場面で真ん中に立ち、この歌をたった一人で歌い始めることができる説得力。これは年数を一定重ねたトップスターでなければ無理だと思います。

今作品で真風さんの歌が素晴らしいものになっていること以上に、ジョルジュとしての信念が伝わるゆるぎない立ち姿と、場面の緊迫を破って歌い始めることができる力量。真風さんが演じた星組「ロミオとジュリエット」の”死”の役で感じた、言葉を発しないままヴェローナのまちを操るかのようであった力量が、今、見事に結実したのだと思いました。

舞台俳優には、歌や目での表現はもちろんのことですが、映像以上に全身での表現力が求められると思います。真風さんの大きな強みは、容姿と衣装の着こなし、さりげない所作や目線を含めて全身でその表現を見せることができる点にあると私は思います。

それこそ、舞台役者!!だと思うのですね。ジョルジュが今、ここで生きているのを我々は今ここで共に見ている。そう感じさせる真風さんの全身での演技です。

デラシネとして、どこか周りと距離を置きつつ世界を楽しんでいる浮遊感

時折、垣間見える離れた故郷への思い。

写真家としての野心と成功後のどこか物足りなさ。

キャサリンとの出会いと自身の中の変化への戸惑い。

歴史に残る内戦のただ中にいることの高揚。

キャサリンを取り戻せた束の間の安堵を見せる隠れ家。

キャサリンに告げる別れと希望。

カメラとの決別と目に込められた戻らない覚悟。

心に強く残るキャサリンへの思いを届ける戦場でのダンス。

 

真風涼帆さんという舞台役者は、見事に全身で今、この物語をまさに生き、この作品をリアルなものとして観客に届けている。

真風さんの全身で見せる演技力が到達した境地。素晴らしいものがありました。

 

3.ぞくぞくする瞬間を見届ける喜び

コロナの影響により宝塚大劇場での休演を余儀なくされたこともあり、久しぶりに見た宙組メンバーの表現は爆発していました。おそらく、東京でさらにより熱を帯びた舞台になっていると期待しています。今の宙組の充実、パッションが伝わる舞台です。

キャサリンの愛の絶唱を堂々と聞かせ、涙を一杯に湛えてジョルジュから離れる演技を見せた潤花さん。

故郷・バルセロナへの熱い思いを表現した芹香斗亜さん。

アギラールの彼なりの正義と野心を演じ切った桜木みなとさん。

ハリウッドのトップ女優らしいつんとした誇りを見せてくれた天彩峰里さん。

カマラーダとして真風さんと肩を組んで背が揃っていることに毎回驚かされる柴藤りゅうさん、瑠風輝さん、優希しおんさん、鷹翔千空さん、風色日向さん、亜音有星さん。

これらの主要役の皆様はもちろんこと、寿組長・松風副組長さんといった方々の演技を含めて、印象に残る場面続きでした。特に印象に残った方々をご紹介いたしますね。

傑出していた留依蒔世さんのラ・パッショナリアの歌。対するバルセロナ市長の若翔りつさん。見事な歌唱対決でした。(名場面です)

演出、コーラスを含めて特筆すべき名場面だとぞくぞくした「一つの心が 二つに割れる」の分裂の場面の迫力。その場面を真ん中で堂々とリードする澄風なぎさん。(名場面です)

短い歌唱ながらはっとさせるマタドールの真名瀬みらさん。

良識ある知識人なんだろうと感じさせる美しいスーツ姿の春瀬央季さん。

さすがの存在感で物語の鍵を握るコマロフの夏美ようさん。

サグラダ・ファミリアで美しく歌う小春乃さよさん。

ヴィンセント恋人・テレサを演じる美貌の水音志保さん。

「一枚のカードを」と歌う迫力ある瀬戸花まりさんと、そのメロディーをカゲソロで歌う朝木陽彩さんの超美声。(ぜひ!)

まぁ、歌上手さんがこれでもかと出てこられる公演、どうぞ、ぞくぞくっとした瞬間と共にお楽しみください。

作家仲間が集まるバーの作家仲間の秋音光さん、秋奈るいさん、水香依千さん、希峰かなたさんやバーテンの琥南まことさんも好きです。「腕の力 少し弱いけれど」と歌って、「いや、ちゃいますやろ!」と一斉に心の中で突っ込まれる留依蒔世さんと強そうな宙娘さん達もどうぞご覧ください。

本当に素晴らしい心に残る公演になりました。宙組の皆さん、ありがとう!