代取マザー、時々おとめ

宝塚の観劇感想メインのブログ。たまたま代取(代表取締役)になったワーキングマザーの日々と哲学。twitterは@miyakogu5。

梅芸DC 雪組ハリウッド・ゴシップ 感想 彩風咲奈さんの繊細な演技、雪組と専科の皆さまの迫力と名演

皆さま、こんばんは。お元気ですか?木曜日夜に、家族3人揃って梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて、雪組「ハリウッド・ゴシップ」を観劇してきましたので、その感想をお届けします。

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1.驚きの名演に拍手!

雪組さんと専科からご出演の皆様のお芝居、圧倒的でした。本当に感動いたしました。

内容の予備知識ゼロで観劇したのですが、冒頭のオーディションのシーンから、これは良き作品の予感?! 最後、少しばかり話は走りましたがきっちりと。

鮮やかな場面転換、見事な群舞と繰り返されるメロディー、ストーリーテラーの愛すみれさんの的確な上手さにより、ぐいぐいと華やかに、時に静かに、時に迫力ある場面が続く。とても優れた作品だと私達は拝見しました。

田渕先生はおそらく、相当、映画をお好きな方なのではないでしょうか?先生の心の中にある「何か」が伝わってきたように思います。心からの拍手を。

名演と熱演揃いの中でも、主演の彩風咲奈さんの繊細な演技、大女優を演じた梨花ますみさんの名演、彩凪翔さんの熱演、早花まこさんの怪演が本当に素晴らしく、「いい物語を観た!」と感動。潤花さんの夢見るような表情も素敵でした。

終演後に家族3人で、「近年稀に見る名演!!(注)」とわぁわぁと大興奮しながら食事をいたしましたよ(^^)。(注 私達が見始めてから、という意味です)

私達家族は100周年少し前からのごく浅いファン。「近年」というのはあくまで99周年以降からの、ということでお許しくださいね。皆さま、それぞれ心に残る名演がおありになると思います。

以下、ネタバレになっていきますので、ご注意を。

 

2.彩風咲奈さんの繊細な演技

パンフレットにある田渕大輔先生のご挨拶にこうあります。

「実際、稽古場で見る彩風には、スターとして輝く華やかな光と繊細な影を併せ持つような、多面的な魅力を感じます。」

出典:田渕大輔氏、宝塚歌劇団「ハリウッド・ゴシップ」パンフレットより引用

確かに。咲ちゃんにはショーで見せてくれる華やかなダンスと、お芝居での繊細な演技の両方の印象があります。

特に、映像で見た未涼亜希さん主演作品「ブラック・ジャック」での若者、「星逢一夜」でのちょび康。「なんで、みんな笑うん」というセリフは、我が家の会話の中で今でも言葉を変えて使っているのですが、それほど強く印象に残るものでした。

 

近寄りたい、でも近づけない。憧れる、けれど怖い。

勇気を出したい、難しい。けれど、一歩前に進みたい。

そういう人間らしいアンビバレントな揺れ動く繊細な感情を、セリフと身体の両方で表現できる方のように思います。咲ちゃんはセリフに加えて、すらりとした身体の繊細な動きを含めた演技のお力もあるように思います。

「キャプテン・ネモ」の時も感心して拝見しました。このユニークな(言葉を選んでいます)演目を、これだけ真面目な表情で一心に演じ切ってみせる。この人は、なかなか肝の据わった人だと感心したのですね。

今作品は、ハリウッドに憧れ、挑戦し、諦め、指南役を得て成功し、思い上がり、感情を失いかけ、道に迷い、そこから自分で離れ、もう一度、映画を今度は自分の手で作ろうとうする。夢見る青年の「眩しく、かつ人間らしい挫折と回復への道程」を、暖かなエンディング(机の上で踊る咲ちゃんと潤花さんもぜひ)とともに見せてくれる作品になっています。

この青年の変化を、咲ちゃんの演技は確かに伝えてくるのですね。回りの方々の名演もあるのですが、特にダイナーの場面。ついそこの角を曲がれば、あのダイナーがまちのどこかにあるように思えたのです。自分も時々、夜ふらっとコーヒーを飲みに行って少しだけゆっくりして帰っていくような。

そして、ここが一番大切なところだと思うのですが、咲ちゃんは清く正しく「明るい」んだと思うのです、この方の根底にある空気感が。(この点は、先日、バウ公演で主演された瑠風輝さんにも感じました。こちらの感想は改めて)

この作品を観る限り、この方は諸先輩をリスペクトし、引きもぶつかり合いも含めてその敬意の上に主演として自分の演技をできる方だと思いました。

おそらく、時が来ればとても素敵なトップさんになられるだろう、華やかなダンスと演技を楽しみに観劇したくなるような方になられるだろうと、今後に大いに期待いたします。

 

3.大女優役・梨花ますみさんの迫力の名演!

何といってもこの作品に「凄み」を加えたのが、梨花ますみさんの名演です。ものすごかったですね。豪華な毛皮を着て、随分年下の新人俳優にいいように利用され、その恨みを果たそうと策略をめぐらし、復讐と復活の目的を果たします。

けれど、アマンダは本当に幸せなのでしょうか?

一度知ってしまったハリウッドのきらめきから、彼女は絶対に離れることができない。その「業」すら感じさせる演技でした。このような演技を宝塚で観るのは、本当に珍しいことです。

田渕先生演出のバウ公演「サンクチュアリ」の純矢ちとせさんが演じたカトリーヌ・ド・メディチ、花音舞さんが演じたルグジェリも本当にお見事だったのですね。もしかすると、田渕先生は中年以降の女性の複雑さをきちんと魅力的に描くことができる、貴重な演出家になられるような気がします。

余談になりますが、同公演で主演された咲ちゃん同期の愛月ひかるさんが劇場におられてびっくり。目の前をすすすと涼やかに歩いていかれて、綺麗な発光体のようでびっくりしました。ラッキーでした。

 

話を戻しますと、今作品の鍵を握る大女優・アマンダ。

見事だったのは、終盤、咲ちゃん演じるコンラッドがハリウッドでの指南役だったアマンダに別れを告げる場面です。

コンラッドにとって、アマンダは憧れ続けたハリウッドに連れて行ってくれた恩人です。それぞれの目的のために利用した関係であったとしても、優れた先生であったアマンダと優れた生徒であったコンラッド。彼らの間には確かに一つの絆があった。

その点を感じ取れる「さよなら、アマンダ」。若く健康でハンサムな青年がバックハグをして告げる「さよなら」・・。フランス映画なの、これ?!

ドリーッム!!!(^^) 我々世代のドリーム!!!恋愛とは関係なくていいの、少し甘やかなそんなシーン、おばちゃんにも来ないかしら?! 

↑ 落ち着いて、miyakoguさん。あんな美青年、そのへんには転がっていないんで・・。しかも、翌日のお弁当のおかずとかに忙しいでしょうが、あなた・・。

 

この場面、本当に素晴らしかったのです。

赤いカーテンと縁飾りのついた大きな窓、強くなる雨の音、雷鳴。舞台奥に窓を置き、外を見ているアマンダの背中を客席にいる我々は見ていて、同時に、アマンダと一緒に窓の外を見ているような見事な構図でした。ぜひ劇場でご覧ください。ここだけでチケット代の元を取れる!他もものすごく素晴らしいけど!

加藤真美さんの衣装も良かったですね。装置は大橋泰弘氏です。

 

4.大スター役・彩凪翔さんの熱演!とどきどきのフィナーレ

彩凪翔さんは、アマンダを利用してのし上がったハリウッドの煌めくスター、ジェフリー・クロフォード役です。

アマンダを利用してのし上がってきたジェフリー。本当は一人ではやっていけない面があると、おそらく自分でもわかっているのですね。その不安。

実際に彼はセリフを覚えられないのです。その不安から逃れるべく、彼は薬物に手を出します。薬物を渡すエキストラ役の煌羽レオさんも切れのいいダンスに加えて、演技もいい味を出しておられます。

アマンダの策略により、現場の主導権を失い、支離滅裂になっていくジェフリーが演じる劇中劇「サロメ」のヘロデ王役。狂気に陥るヘロデ王とジェフリー。その両者の狂気が重なりあう演技を翔ちゃんがされています。上手い!

その上で、まぁ、あれですよ、あれ!!!ばんばんばん!(^^)

フィナーレで、男性的で長身の縣千さんと中性的な彩凪翔さんが組んで踊るタンゴ!(タンゴでしたっけ?このあたり、衝撃のあまり記憶が定かではない点、何卒、ご理解ください)

何、あの人!黒燕尾着て生まれてきたの、縣千さんは。どうなってんのぉーーーー?!

そいで、翔ちゃんをリフトって、リフトって・・・。わなわなわな。

ありがとうございました・・。まぁまか以来のとんでもない場面でした。

 

5.印象に残った皆様

・エステラ役の潤花さん

潤花さんもとっても良かった!セリフの声が後半、やや丁寧さに欠けそうな場面があったものの、お綺麗で可愛らしくて、夢を見るような表情があり、現実を暖かく見ることができる地に足のついたエステラを、魅力的に演じておられます。

ダンスがお上手な方ですよね?「サロメ」でのダンス、ラスト、机の上で咲ちゃんと二人で踊る場面の幸せな輝き、フィナーレでの咲ちゃんとの物語の続きのようなニュアンスのあるダンス。歌もお上手になられたとうかがいました。彼女は明るい声質も魅力的。お化粧映えのする素敵な笑顔だと思います。

 

・ダイナー女主人役の早花まこさん

お見事でした!尊敬も込めて言うと若干怖すぎ感もあるのですが(^^)、これは確かにコンラッドが言うとおり「キャラが立ってます」。ぶっきらぼうなんですが、ハリウッドに出てきたエステラや常連客を、毎日きちんと見守っているんだろうなぁと感じさせる確かさがありました。おもしろいんだ!ぜひご観劇を。

 

・監督とダイナー常連客の真那春人さん

監督は実は、専科の方かと思っていました・・。もちろんすぐに、真那春人さんだと気付きましたが、微妙な立場の監督を上手く演じておられますね。感心したのはダイナーの常連客。うとうとする、料理が出る、お皿をひっくり返すと一連の流れが潤花さんのエステラのセリフと見事に合っていて、マジックのようでした。上手いなぁ。

 

・執事役の真地佑果さん

大女優・アマンダの家の執事、ピーウィー役の真地さん。アフロの髪型がかわいらしいのですが、ダンスの名手の咲ちゃんと組んで遜色のないきびきびとしたダンス、綺麗な体の線、お見事でした。フィナーレでも素敵な女性陣と一緒にピーウィーとして登場。生き生きと楽しそうに演じておられる姿が印象的です。

 

6.全員のお芝居が素晴らしかった

これまで書いた以外でも、プロデューサー役の夏美ようさん、秘書役の千風かれんさんのソツのなさ、ストーリーテラーの愛すみれさん、ゴシップ記者の天月翼さんの迫力、諏訪さきさんのしなやかなダンス、眞ノ宮るいさんの青年らしい演技、ゆめ真音さんの良く聞こえた声・・。お一人、お一人がそれぞれに見事に役を演じ、踊り、歌い、生き生きと舞台の上の時間を生きておられたと思います。

 

何というのか・・。いい舞台や映画を観たときには、この舞台や映画の中の世界が、この世界のどこかにパラレルに確実に実在するように感じるのですね。

この作品は、そう思わせる力があったのです。

アマンダは今日もプロデューサーに何かを持ちかけていそうだし、コンラッドは自分の映画をエキストラ仲間と創り始めていそうだし、エステラはあのダイナーで主人と一緒に働いていそう。常連客の男性はうとうとしていて、料理が出るとびっくりしてお皿をひっくり返す・・。

日々はすぐそこで続いていそうです。

夢を野心に変えてもいい、けれど、何か大切なものを失ってまでそうしたいのか、そうでないなら、別の方法でやってみればいい。そのような「希望」を最後にもたらした作品。そう、「希望」で締めくくられたエンディングも素敵でした。

皆さまも、もしチケットが手に入る余地があれば、ぜひご観劇をお楽しみください。

雪組の皆さまの、次の大劇場公演も素晴らしいものになると思います。素敵なお芝居を、ありがとう!